- ナノ -

05

病院の一室で腕を組んで見下ろしてくるエンデヴァーは、不遜な表情で口を開いた。

「それで、何をするんだ」
「生江君を、貴方に返します」
「今頃子供が一人増えるのは困る。返すな」
「いやそういうのじゃなくてですね!」
「もしかして俺捨てられるのか?」
「いや違う違う!」

それぞれ好き勝手に口を開くエンデヴァーと生江にホークスは頬をひくつかせた。一応、彼もそれ相応の決意を持ってエンデヴァーを呼び出し生江を連れてきたというのに、当の本人たちは事情を察していないような態度を示す。説明をしていないのだからそうかもしれないが、なんとなく察するものはあるだろうに。
意味もないような会話で騒いでいれば、一人の看護師がやってきた。恐る恐るといった風に扉を開けたその人物に三人の目線が集まる。
ホークスに手招かれ三人の元へやってきたその人物は伺うようにエンデヴァーを見やった。

「三ヶ月前に世話になった。感謝している」
「わ、エンデヴァーがお礼を言っている」
「俺をなんだと思っている」

エンデヴァーの言葉に反応したのは生江で、どこか作ったような驚き顔でエンデヴァーを揶揄している。そんな二人に気が抜けたのか、少しだけ肩の緊張が抜けた看護師にホークスが声をかけた。

「連絡してなくてすみません。個性を解除してもらえますか?」
「それは、もちろん大丈夫です」
「ありがとうございます」

看護師は、個性を発動するのに必要なのだと言って申し訳なさそうに安全ピンを取り出した。
目的は個性の解除だと思っていたから、消毒してもってきたとのことだった。互いの血を混ぜ合わせることが必要だと。二人とも特に躊躇することもなく指に軽くピンを刺し、そこからプクリと血がにじみ出る。
特に質問も、戸惑いも見せないエンデヴァーと生江に、ホークスは酷くいたたまれない気持ちになった。本当は聞きたい。本当にいいのかと。しかしホークスには、その権利などないと本人は思っていた。
顔に影を落とすホークスに目ざとく気づいたのは生江で、血を看護師に差し出す前にホークスの手を引いた。

「生江君?」
「この三ヶ月楽しかった。また仲良くしてくれ」
「おい」
「いいだろう別に」
「……そうだな」
「エンデヴァーさん……」
「俺は俺だ。この件は必要なことだった。変に気負いされてはこちらが困る」
「そう、ですよね」
「あー、つまり、今の状況に異論はないと言うことだ」

生江がエンデヴァーの言葉を補足するように付け足した。それに、ホークスは本当に俺の思うままでいいと言っていることが分かり、理由も分からず鼻の奥が熱くなっていた。
それを見た生江が小さく微笑む。

「啓悟はフィクションと違って、間違わないって知っているからな」
「ふん、ここはフィクションではないがな」
「それはそうだろう……そうだろう」

違和感はあっても記憶のない生江がそう自信なさげに言って、エンデヴァーが鼻を鳴らす。
看護師がいいですか? と聞けば、二人とも手を差し出した。
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