- ナノ -

6はぁ、でも1度でいいから目を合わせて喋ってみたいな……。無理だろうけども。


思い切り変なことを言ったのでそのまま穴に入ってやり過ごしたかったが、その後は何故か出資者や代表者が部屋の前の長椅子に座って進行していくという仕組みになっており、当然のごとく劉備と孫堅さんが呼ばれた。そこまでは良かったのだが何故か孫権が呼ばれ、本当に何故か分からないが私まで引っ張られた。
ガチホント勘弁してくださいほんと無理前出るとかお前ほんと誰だよってなるからまじで。
という主張を込めて全力で腕を離させようと抵抗したが、両手で腕を掴まれて引きずられた。なんだあいつ力強いんですけど!!!

前に出た曹操、劉備、孫堅さん、孫権が今回の企画について説明していく。映画のみならグッズの発売、一部の既に芸能界にいるものにはテレビへの露出、他の媒体への進出などあり、曹操たちが商業的にガチでやろうとしていることがよく分かった。また報酬のなどの話もされ、のちのち面倒になっては嫌だから、と赤裸々に語られちょっと唖然とした。いやまぁ、そうなんだけど、それにしても赤裸々だった。隠してる部分もちゃんとあるんだろうけど。
私はといえば詳しい話も何も知らないのに前にいて、身が縮こまる思いだった。することもなく、ただ話を聞きながら武将たちを眺めていた。いやだって三国の武将たちが勢ぞろいしてるんやで。そりゃあ見るでしょ。
その中で自然と目線が向いてしまうのは、やらり1番好きなキャラ……人物だ。于禁さん、私の前世での最推しだった人。本当に好きだったんだよなぁ……自他ともに厳しく、周囲から恐れられていたけどわかっている人は分かっていたはずだ。彼の厳しさには理由があることを。
だからこそ……この世界の史実で報われなかったことが悔やまれる。この世界の歴史は、呉の勝利で終わっている。しかし三国は作られたまま、各々の君主が同盟を結ぶことによって保たれる戦のない世。しかしそのように史実がずれた世界であっても、樊城の戦いは起こった。そして于禁は一時期蜀で捕虜とされ、その後呉に引き取られ客将としての扱いを受ける。
歴史は大きく変わったが、呉以外の歴史はあまり大きくは変わっていない。呉で病や怪我で歴史から退場するはずだった者達は生き残っている。孫堅や孫策、周瑜や魯粛、呂蒙と言った面々だ。蜀も関羽や張飛が生き残っている。劉備が呉を憎悪する原因のなりうるはずだったものがなくなっているわけだ。しかし魏の歴史はほぼ変わらない。典韋や郭嘉は死に、赤壁での大敗、変わるとすれば呉に関わる戦いの勝敗と曹操の死か。

カッコいいし綺麗だし本当に世界の神秘詰め込まれてるな、と色々考えながら堪能していれば、ふとその目線がこちらを向いた。
それに慌てて目線を背ける。いやちゃんと何となくっぽくはしたけどね!!やばいやばい、バレたら私が変質者だとバレるかもしれないからね。
はぁ、でも1度でいいから目を合わせて喋ってみたいな……。無理だろうけども。

「生江」
「無いです」

孫権が何かを語る前に一刀両断する。ごめん、話途中から全然聞けてなかったから言えることないんだ。