- ナノ -

5うむ、じゃねーーーーーよ!!!


結論だけいうと、嘘じゃなかった。
でも嘘だと言いたい。ガチの三国志の人達と一緒にガチの歴史映画とか死ぬんですがこれ。
なんか私の役柄、遠見ができる孫権の影武者とかよく分からん設定になってるし。遠見できたんですか私。
コロコロ進んだ会議から1ヶ月が経過し、見知った面々やテレビでしか見ていなかった者、ゲーム画面でしか見たことのない人などが大勢集まった。そりゃあ、あの歴史すべてをやるならこれらの人数が必要だろう。

というか安易な前世からの三国無双のファンなのでガチめに緊張するし興奮するんですがこれやばい良くない私の精神的に良くない。
それぞれの陣営ごとに席が配置されており、仲良さげに話しているところからなんとなーくピリピリしているところまで様々だ。仲間うちでも色々あるよね!
それでも過去は過去なのか、それぞれ楽しげにしているのを見ると、現パロっていいなって安易に思う。これだから安易なファンは!

しかもしかもだ……私が前世で最推しだったキャラ――ではなく人物もいる。
あの鋭い目元にしっかりと結ばれた口元。涼やかな輪郭、高い身長に美しい黒い髪――ああー!やばい!光り輝いて見えるぅー!!!

「う、于文則さんやばい……生きてる……」
「……お前は相変わらず、于将軍を気に入っているんだな」
「え?」

私が見ていたのは言葉通り于禁さんだ。于文則と名乗っているらしい彼は、魏のスペースにいるが、誰とも喋っていない。
史実の彼を思えばそれも当然かもしれないが、心が痛むし興奮するしサインを貰いに行きたくて仕方が無い。しょうがないんだ!ファンの性だから!!
しかし、孫権にぼそりと言われた言葉に、耳を疑う。私、孫権の二重人格(という設定)だった時も于禁さんのことこんな感じで好きだったの?それ大丈夫?不審者じゃない?

とりあえず于文則さんを盗み見することに集中していれば、空気が静まり返る。
なんだと皆の視線の先を見てみれば、そこには部屋の前の長机が並べられている中央に堂々と姿を表している曹操がいた。
曹孟徳――三国の歴史では、夢半ばに敗れ、炎の中に消えていった英雄。孫権率いる呉は蜀と魏と共に三国を持って世を平穏にした。しかしそれは魏の主君が曹丕に変わってからだ。曹操は最後まで自らの意思を曲げず、その夢に散っていった。
と、そんな人が出てきたらそりゃあ静まり返るわ。と納得しつつ緊張して、同じように口を閉ざしていれば曹操が口を開いた。

「皆、ようこの場に集まってくれた。先にその感謝を述べよう。全ての者が集まってくれるとは思わなんだ」

曹操の言うことは最もだ。いくら前世の事とはいえ、色々あった。現世で平和になったとはいえ、歪も傷もあるだろう。だが、この場には招集した全員がいた。それはきっと、素晴らしいことなのだろう。

「さて本題だ。通知した書類に記述しておいたが、此度わしらが行うのは娯楽だ。わしらでわしらの歴史をたどる、生まれ変わった当人が当人らの歴史を紡ぐのだ。苦もあり楽もあり生も死もある。やるならば余すところ無く顧みるぞ、幸福な世界を、地獄のような世界を、それらを再び演じ、娯楽と成す覚悟はあるか?」

流石と言うべきか。
演説のようなそれは、どこまでも引き込まれる。彼が本気であることやそれと同じ覚悟を私たちに求めているのがわかる。
肌がひりつく感覚を覚えながら、私はどうかと思う。私にその覚悟はあるのか? 何も覚えていないのに? そもそも、本当に孫権の二重人格だったのかさえも定かではない。孫権以外の誰もがその存在を知らないのだ。私はここに介入すべきなのか。ただの部外者でいるべきではないのか。

「……孫権、私」
「怖じ気ついたのだろう?」

小さな声で発した言葉に、孫権がすぐに答える。そしてその通りで私は何も言えなくなった。だって、こんなの見せられたら怖くもなる。
孫権は少しだけ笑って言った。

「私もだ」
「え」
「だから、生江にいて欲しい」

握られた手の温度に、とても頼もしいような、とても頼りなさそうな、不思議な感覚がした。私がいなくちゃいけないのだと、この子に必要なのだと……何故そこまで思うのか分からなかった。けど、確かに、そう感じた。

でも、そこまでいうのなら。
記憶はない、けれど確かに、この理論では説明がつかない彼を助けたいという気持ちがあるのなら。

静まっていた室内で、誰かが立ち上がる音がした。目を向ければ劉備がおり、険しい顔をしていた。

「私は辛い記憶を掘り起こそうとは思わないぞ曹操殿。確かに演ずるのが苦しい時もあるだろう。だが、それらは過去だ。しかし過去に思い悩む者もいる。そういう者達の助けになればと私は思っている」

こちらもこちらで流石だ。過去の清算、それもそれで意味のあることだろう。時間は経った、あとは向き合うこと、か。

「権、お前はあるか。この娯楽に参加する意味が」

思わぬタイミングで孫権の名が呼ばれた。それは孫堅さんからの言葉で、孫権と話していた私は思わずビクついた。
そんな私は置き去りにして、孫権が顔に笑みをたたえながら席を立った……私の手を道連れにして!!

「(うおおおおい!!)」

当然の帰結として、私も引きずられて立ち上がってしまう。一気に視線が集まったのが肌で分かった。一瞬頭が真っ白になる。
だがそれを引き戻したのは、私の手を強く握って来た孫権だった。

「曹操が言うことも、劉備が言うことも正しいと思う。何もなく終わることはないだろう、だが確かに何かは得られるはずだ。私はこの娯楽で確かな何かを得たい。それは人ぞれぞれだろう。感動であり、不幸であり、理解だ。歴史に埋もれた記憶を、私は辿り、そして――」

孫権の目がこちらを向く、困惑しかない私に孫権は力強く――そして切なげな瞳で言う。

「思い出し、分かっていきたい」

それは、私のことを言っているのか。
何も覚えていないのにという私に、思い出してほしいと告げているのか。
そもそも思い出せる記憶があるのかさえわからない。ただ本当に、私は彼の双子に生まれただけに過ぎないかもしれないのに。
孫権の手にを握る。すると元気づけるように笑顔になる彼は、もしかすると本当は誰よりも不安なのかもしれない。

「生江はなにか言うことはないか?」

前言撤回。こいつ不安も何も思ってねぇぞ!おい!ほんと待て!周囲が、え?生枝?誰?みたいな雰囲気になってるから、若干ざわついてるから!!
嫌でもここで特にないっていうのやばいよね?孫権の株に関わるよね? なんかいった方がいいの? 何かこう、それっぽいこと、それっぽいことを……。

「……僭越ながら、何を胸にどうこの娯楽に向き合うかは各々の自由だと思います。熱意や決意は人に測れるものではない、けれどだからと言って何も思わずに演じれないはずです。だからこそ私が言えるのは自身の身を大事にして、一人も欠けることなくこの娯楽を皆で最後まで楽しめることを願っています、ということだけです」
「うむ、そうだな。何事も己の体があってこそだ」

うむ、じゃねーーーーーよ!!!
お前後で覚えてろよ!!!!