- ナノ -

2何がやはりで、何が変わらないのかは分からないが、孫仲謀さんにとっては大事な人なのかもしれないと思った。


とりあえず落ち着いてもらおうかと思ったが、落ち着かなかったので二人して広義を休むこととなった。
そのまま休憩スペースに移動し、話を聞く。興奮冷めやらぬ、という感じで何故か私の腕を離そうとしない様子に困惑しか募らない。
私が椅子に座ったあとも難儀していれば、孫仲謀さんが笑顔からまた変化し、どこか不安げな顔で問いかけてきた。

『なぁ、何故そんな顔をしているのだ? お前は会えたことが嬉しくないのか?』
『ああ、いや、えっと、そうではないというか』

実際、前世ではゲームの中のキャラであった人物に似ている人に出会ったのだ。興奮もするし嬉しいしコスプレを是非してほしいと思うが、だからと言ってこの反応の理由が掴めない。
どうやら孫仲謀さんは私のことを知っているようだが、私は完全にゲームの知識のみだ。
今度はこちらが拙い中国語を使いながらとりあえず状況を説明する。

『その、すみません。私はあなたの事を知らないんです。初対面です。もしかして、誰かと勘違いしているのでは?』
『そんな、そんなはずはない!』

突然孫仲謀さんが立ち上がって、その勢いに負けて椅子が倒れる。大きな音が鳴って、驚きに目が丸くなる。だが叫んだ本人は頭に血が上っているのか、鋭い虎のような目付きで私を見つめてくるだけだ。

『……とりあえず、落ち着いてください。あなたの知っていることを教えてはくれませんか?』

こりゃあ話をひと通り聞かないことには進まない気がする。そう思い言葉で伝えてみれば、孫仲謀さんは徐々につり上がっていた眉を落とした。

『……やはり、何も変わらないではないか』

何がやはりで、何が変わらないのかは分からないが、孫仲謀さんにとっては大事な人なのかもしれないと思った。