- ナノ -

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眠い。どれだけ寝ても、眠気が取れない。
最近は本当に疲れているのか、寝ても寝ても一向に目が覚めない。けど、夜には目が覚めてしまうのだから昼夜逆転生活になってしまっていると思う。大学生だからと言っても、そろそろどうにかしなくてはならないと思っていたところだ。
目を閉じて、意識を閉ざす。大層気持ちがよくて、そのまま目覚めなくてもいい気がしてしまう。
そうだ。目を開いていても、辛いことばっかりだ。
いつ何時でも、人を殺す算段ばかり考えている。あの戦は勝たなければ、この戦はあの将を殺さなければ。
なんだなんだ、そんな怖い話ばかりをして。私はもっと、アニメの感想とか、漫画の最新刊の情報とか。そういう話がしたいのに。みんな怖い顔をして、私も怖い顔をして。
人を生かす算段をしている。それはわかっていた。結局、殺さねば殺されるのだ。けれどそんな世界恐ろしいじゃないか。私はただただ平凡な人間なのだ。私の発した言葉で、誰かが死ぬなんて考えたくもない。
人の命がまるで蟻の命のようだ。どんどんと踏みつぶされていく。私の決定は象の足で、潰れた後しか見ることはない。
生き残った人々から幾ら称賛されようと、感謝されようと、私はその矛盾に吐き気がしていたものだった。

今度はあの戦だ。今度は誰が死ぬから、死なぬように動かねば。今度の戦は、あの将を殺さねば。殺さねば、殺さねば――また人が死ぬ。

殺したいわけがない。だって、それは、その人は――その人もどの人も、夢や希望があって生きていた。平和が欲しいから、夢をかなえたいから武器を振るっていた。なのに、どうして分かり合えない。どうして殺し合わねばならない?
だって仕方がないじゃないか。わかってくれない、分かりあってくれない。ならば、殺すしかない。
もうだめだ。もう懲り懲りだ。こんなこと始めなきゃよかった。ただ歴史に沿って死んでいる人々を、ただ見ているだけにしておけばよかった。そうしたら、私のせいで死ぬ人たちなんて見ないで済んだのに。私は蚊帳の外でいられたのに。
でも私は当事者だった。支えてくれる者がいた。けれどもう無理だ。
全て終わって、平和になった世を見て、私は地獄を見ているようだった。
あの平和の元に、何人死んだ、何百人死んだ、何千人、何万人が死んでいったのか!!
その罪悪を一人で背負うなんて、馬鹿らしかった。だって私は悪くない。私はただ、呉の平和のために、孫権の望んだ世界のために頑張っただけだった。けれど、それでも、私は弱かったから。

あの人が死んだ。
会いには、終ぞ来てくれなかった。
私では、駄目だった。
私は、救えなかった。
当たり前だ。私が救えるのは、呉の人々だけだった。
あの人は、魏の人だ。あの人が望んだのは、曹操の天下だった。あの人が会いたがったのは、きっと自らの王だった。

ねぇ。私はいったい何をやっていたの。
大好きだった人まで死なせて、何がしたかったの。
――もうダメだ。もう、耐えられない。

もう、開放して。こんな苦しい世界にいたくなんてないの。
ごめんねごめんね。ごめんなさい、でももうダメなの。お前が支えてくれていたとしても、もう支えてほしくないのだ。すまない、すまない。弱い人間ですまない。幸せなど、感じたくもないのだ。
あの人が苦しみの中で逝ったのなら、もうそれが全てだ。
私はもう何もできない。私はもう――生きる理由がない。