- ナノ -

違えた『約束』を貴方に

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「お兄ちゃん……。その、ごはん、持ってきたよ」
「おう」
「……食べ、させてあげるから」
「ああ」

私たちの両親は既に他界している。私が4歳の頃、兄が中学の頃だ。
中学の頃から兄はその規格外の強さを発露していたが、その時一軒家に住んでいた我が一家の自宅は無残にも怪人に一瞬のうちに半壊させられた。
その中で生き残ったのが私一人で、両親は死んでしまった。私は瓦礫に埋もれていたが、兄が駆けつけてくれてどうにか助けられたのだ。
私が生きているのは兄のおかげ。こんなふざけた世界で生きているのは唯一の家族である兄がいてくれたおかげなのだ。
だから、私たちは新しい――怪人被害未成年者に与えられるマンションだ――2LDKの家で二人で生きてきた。私たちは少しずつ大きくなっていって、兄はいつの間にかヒーローになっていて、C級だったのがS級になっていた。私は大きくなって自分の部屋がどうしてもこうしても欲しくなりどうにか渋る兄を言いくるめて簡易的な鍵付きの部屋をゲットした。

そんな私の部屋で、古風な学ランを着た兄が床に腰を下ろして背を壁に預けて座っている。
その首には犬用の首輪がしめてあり――決してチョーカーなどではない――そこからは鎖が繋がれベッドの足に何重にもなって絡みついて、百均などで売っていそうな簡単な暗証番号で開け閉めのできる鍵で取れないように固定されている。
両手首は背中で手錠で繋がれていて、でもそれはドンキとかで買えるオモチャの手錠だ。それでも鍵はついているから勝手にとれることは絶対にないだろう。

今日はオムライスを作った。兄のバッドは私の作る料理をなんでもおいしいと言ってくれる。両親がいなくなって一人で台所に立てるようになってから幼い妹――と言っても私だが――を一人で育てている大変な兄に少しでもいいものを食べてもらいたいと料理をするようになった。最初は失敗ばかりで、逆に兄を心配させるばかりだったが、今では毎日その料理を楽しみにしてくれていた。
オムライスは兄も私も好きな料理で、仄かにおふくろの味がする、そんな料理だった。

小さな手でスプーンを掬って、そのまま兄の口に運ぶ。
なんの疑いもなく開けられた口にひょいとスプーンを入れればそのまま口は閉じられてスプーンを引き抜く。
もぐもぐと咀嚼され飲み込まれていったお手製のオムライスを見て、思い浮かんだ言葉は

「(この人、頭おかしいんじゃないのか)」

だった。