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違えた『約束』を貴方に

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この世界は、なかなかどうして物騒で怪人と呼ばれる化け物たちが建物を壊し人に迷惑をかけ、場合によっては容赦なく人を殺し町を破壊する者たちが生まれる。
それは普通の人がマイナスな感情を抱え込んで爆誕した結果であったり、無機物が意志を持ってできた産物で在ったり、地底人であったり、宇宙人であったりする。
単純に言うと、何かから変貌や元から人とは違う形をしたそれらが人にあだなす存在となったもの――それがこの世界で“怪人”と呼ばれ恐れられている生物なのである。
だがしかし、この世界にはそんな恐ろしい生物がいるというのにこの世界の人々はそれほど怪人を恐れてはいない。人間特有の“自分は大丈夫”という概念の賜物でもあるだろうが、それよりなによりもこの世界で活躍する存在が大きいのだろう。“怪物”と呼ばれる見た目は弱っちいように見えたり、ただの子供の落書きの化け物に見えたとしても人間より何倍も強いそれらを当たり前のように倒してしまえる人間――ヒーロー。
そう、この世界はヒーロー協会と呼ばれる組織が存在し、その中でヒーローたちが公式に認められ活動している。そんなヒーローたちが日夜怪人たちをやっつけてくれているから、この世界の平穏は保たれている。
奇跡的に死傷者が出ない事件も多く、人々は怪人に慣れ、助けてくれるヒーローに慣れている。
そんなどこか平和ボケした、しかし死が嫌に近くにある世界。
それが、このどこか歪な世界。
誰かが隣で死んでも、なんとなく次の瞬間には忘れてしまっているかもしれない。命の軽い、まるで漫画のような世界。

さぁ、ここまで言ったらわかる人はきっとわかる。
もしかしたら私以外にも、この世界でそうだ!と気づいている人がいるかもしれない。
だってこの世界は、そんな人たちをまぁいいよ。とふわっと受け止めてくれる包容力があるような気がしてならないのだ。
そう、ここは――ワンパンマンの世界。
あのどこか気の抜けた、最強のヒーローがいる世界だ。



そして、その上で私の自己紹介だ。
現在小学3年生。満9歳になる。ワンパンマンの知識があることからお察しだが、一度生を終えてこの世界で新しい生を得ている。
そして――私の兄はワンパンマンのS級ヒーロー、金属バットである。
本名バッド。中々洒落た、というよりも親の感性を疑う兄の名前だが、それがヒーロー名、ひいては戦い方にまで起因しているのだからこの世界はやはり適当だ。
そんな私の名前は善子。まぁ私のことは結構どうでもいいのだ。



私の兄は規格外の強さを持つS級ヒーローだ。
さて、ここからが問題なのだ。
そりゃあ、異世界、しかも二次元に転生したとかバッドの妹とか色々突っ込みたいところはあるだろうが、それよりももっと身近でどうにかしなくてはならない事案が発生しているのだ。



私は今、規格外の強さを誇る兄を――監禁している。