- ナノ -

違えた『約束』を貴方に

page.13 6−1

六日目。

風邪治んないんですけど。
食事を食べて吐き出した後、そのまま寝て起きてみたら随分と眠っていたらしく次の日になっていた。
何度か意識は覚醒したけど、そのたびに体のだるさを感じてまた目を閉じた。
そうして治るまで耐久睡眠レースをしていたら、悪化した。

「げほっ、ごほっ」
「善子、このままじゃ死んじまう。病院行こう、な?」
「死なない、し」

たぶん、まだ平気だ。
小さな子が風邪をひいてそのままにしたら脱水症状で命の危険が及ぶこともあるかもしれないが、そこらへんの対処はできている。
だが辛いのは確かだ。まるでインフルエンザにでもかかったかのように節々が痛むし頭が常に殴られているかのように痛む。正直咳をするのも胸が軋んで痛みを発する。
それで、昨日さんざん菌を移してやったはずの兄がこんなにピンピンしているのか。
ちらりと潤む目で兄を見れば、焦りまくって冷や汗を流している姿があった。経過は良好、全くもって健康体です。
くそ、これだから体力が売りなヒーローは……。
ゴホゴホと咳き込んで目を閉じれば、慌てた声が降ってくる。

「そうだ。なんか食べりゃあ元気になる!」
「……」

病院にはてこでも行かないと悟ったのか、食事を提案してくる兄は薄く瞼を開けてみてみれば無理やり作った笑みが歪んでいた。そんなに心配だろうか、私のことが。

「なぁ、とってきていいか?」

縋るように尋ねる兄は、私の約束を守ろうとしていた。だから私からの『動く許可』が必要なのだ。
でも、ダメだ。こんなことでいちいちOKを出していたら、約束をした意味がなくなってしまう。
どんなことになっても、兄が自分から動いてはいけない。

「だめ……」
「っ、善子……」
「……」

でも、このままでは風邪も治らないことはわかってる。
ちゃんとした食事ぐらいとらなければいつまでたってもこのままだろう。それではいけない。
ぐっと身体を起こして、痛む体に鞭を打つ。それから、兄に向ってお願いする。

「背負って、わたしも、一緒に、いく」
「あ、あぁ!」

パッと顔を明るくした兄は早速私に背を向けた。両手も後ろにあるから、背負うぐらいはできるだろう。
ずるずると兄の背にどうにか乗っかって、兄の首に手を回す。

「だいどころ、ラーメン、作ろ」
「わかった!」