結局身体は自分で洗うと言ってきかなかったので、背中だけ洗ってあげてあとは手錠を片方外して私につけてそっぽむいていてあげた。
そのあと、入った時と同じようにめんどくさい手錠の付け替えをしながらどうにか着替え終わり、私の部屋へ戻ってきた。
兄はそのまままた元の位置に戻ろうとする。
「お兄ちゃん。ここに座って」
「ん? でもよ」
「いいの。私のいう事は?」
「絶対、だな」
一つ頷いて私の言われたとおりにベッドに背を向けて座った兄に、本当にこれでいいのかと自問する。
答えが出るわけもなかったので、そのまま兄には待機してもらって洗面所からタオルとドライヤーを持ってくる。
兄は適当にしか髪を乾かさない。いつもそうだが、今は片手が不自由であったことからもそれに拍車がかかっている。今はまた後ろ手に拘束されているからポタポタと水が髪から垂れてしまっているのだ。
これでは風邪をひいてしまう。今まで兄が風邪を引いたところなぞ、一度も見たことはなかったけど。
ドライヤーの線をコンセントに差し込んで、ベッドに座る。兄の髪を乾かすにはちょうどいい高さになって、早速タオルをかけた。それから髪の毛をタオルで傷めないように水を吸収する。
それからドライヤーで乾かしていく。ゴーーーと丹念に乾かしていれば、ガクリと兄の体が揺れた。直ぐに元の位置に戻っていたが、どうやら暖かさに眠くなってしまったのかもしれない。
ちょうど昼寝にもいい時間かもしれない。
ドライヤーの電源をオフにして、兄の肩を叩く。
「ちょっと、お昼寝にしよう」
「いいのか?」
「うん」
どうやら自分でも寝かけた自覚があるらしい。
少し眉をゆがめた兄は、そうかと言って定位置に戻ろうとする。
それを引き留めて、ベッドの上を手で叩いた。
「……いーのか?」
「うん。いーよ」
早く。といえば腰を上げてベッドの上へあがってくる。
私も端に詰めて、小さなベッドはあっという間に埋まってしまった。
兄は窮屈そうに足を折り曲げていて、決して快適そうではない。
「善子とこうやって寝んの、久しぶりだな」
「……そうだね」
明らかに嬉しそうにそう言ったので、軽く返事をする。すると兄は腕を動かそうとして、できずに眉を顰めた。それに、何をしようとしたのか分かった。昔は一緒に寝るとき絶対に兄は私に腕枕をしてくれた。でも今は後ろで手錠でしているからできないのだ。
それに気づいて、私はごそごそとポケットからドンキの簡単な鍵を取り出して片方鍵を開けた。
「腕、前にしていいよ」
「おう、ありがとな」
お礼の言葉に少し苛立ちながら前へと回ってきた腕はやはり腕枕の形をしてきて、そこに頭をのっけた。
それから手錠と自分の手首をつなげた。ぶかぶかですぐに外れそうである。
「寝にくくねぇか?」
「別に……。大丈夫」
「そうか」
可愛くもない妹に、兄はそう言ってフッと笑った。
なんで、笑っていられるのだろう。
首につけた首輪とそこにつけられた鎖がカチャリと鳴った。
やはり、兄は本気ではないのだ。