- ナノ -
もしゃもしゃと口を動かしながら、なんとなしに二人を観察する。
黙々と食べる谷垣さんと二瓶さん。もしかしたらそんなに仲は良くないのかもしれない。
では出会ってからあまり日は経っていないのだろうか。今は漫画としてはどれぐらいなのか。

私は二瓶さんに撃たれて、助けられてから彼らに看病してもらったらしい。
谷垣さんの名前も教えてもらって、私としてはやっぱりゴールデンカムイの漫画の中なのだと確信した所だ。
私が意識を取り戻してから、村へと言われたがそれよりお腹が空いたとごり押しした。
だって行ける村なんてないし。と言っても足を運べば迎え入れてはくれると思うけれど。あの人たちは良い人たちだ。
熊だった私を撃った二瓶さんも、悪い人ではない。
むやみに熊を殺しているのなら悪い人だが、漫画を思い出すにきちんと食べてくれる人だ。これすなわちいい人。
動物と決闘するのが生きがいの人で、中々に肝の据わった人だったはずだ。

「……二瓶さんは、どうして山にいるの?」
「山で生きて山で死ぬのが俺の願いだからだ。その為に俺はここにいる」

山で生きて山で死ぬ。それは簡単なようで難しい。
もぐもぐと口を動かしながら、記憶を辿る。

彼は、どうだったか。





いつまで経っても村に帰ろうとしない私を置いて、二人は狩りに出かけてしまった。
安静にする必要もあると思ったのだろう。あまり無理に私を動かそうとしない二人に感謝しつつ、ぽつねんと一人で二人の帰りを待つ。
谷垣さんは足を怪我していて、二瓶さんに助けられたそうだ。狼に襲われたといっていたが、その理由を私は知っている。
勿論そんなことを言う馬鹿ではないので、素直に災難でしたねと言ったら生江ほどではないと言われた。まぁ確かに私撃たれてるし。

撃たれた理由を、私は何処から撃たれた。とだけ言った。細かいことは言わない方がいいだろうと思ってだ。熊で谷垣さんを襲おうとしたら二瓶さんに撃たれちゃいましたてへぺろ! とか流石に言えない。流石に。
谷垣さんは突然撃たれたという私の証言に、撃った相手に憤っていたが二瓶さんはいたって冷静だった。もしかしたらこういうこともよくあることなのかもしれない。物騒過ぎないか北海道。

いや、でもゴールデンカムイだからなぁ。物騒過ぎてなんぼだし。

「暇だなぁ」

二瓶さんにもらった鹿の眼を口の中で転がしながら呟いた。

山で生きて山で死ぬ