- ナノ -
「鹿肉!」
「好きなのか?」
「好き!」

叫ぶたびに腹の傷がめっちゃ痛む。が、それどころじゃない。
食事! 久しぶりの食事だ!!
はしゃいでいると、それが理由で痛むのを素早く発見され、谷垣さんに怒られる。
なんだよーもう大丈夫だってばー。あ、痛い。

「ぅ、ぅう、痛い……」
「だから言っただろうに」

大丈夫かと背中をさする谷垣さんの手は優しい。
仏頂面で分かり辛いが、この人はかなりいい人だ。好感度マックスですよ。
その手つきに思わず笑みを浮かべながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。
傷口はまだまだ塞がっていない。少し動くと血が滲むし、痛みも私を殺しにかかってきているようだ。
それでも生きている。腹の傷に感謝しながら、二瓶さんが用意してくれるらしい食事を待ち望む。

「肺が食べたい! 生!」
「生か」
「あと肝臓! 生!」
「生か」

新鮮な肝臓と肺は美味しいんだよねぇ。こう、もちもちしてて。
血の味が食欲をそそって、いつまでも食べたくなる味なのだ。
頬を抑えながら喜々として待っていると、鍋を抱えた二瓶さんがテントへ登場した。

「二瓶ごはん!!」
「こりゃあ元気な雛だな」
「恩人ごはん!」
「お前は村に帰らなくていいのか?」
「いいからごはん!」

村とかないし! いいから飯をくれお腹が空いた!!
二瓶さんをギラギラした目で見ると、楽しそうに口角を上げて鍋を中心へ置いた。
生じゃないのは残念だけど、火を通せるのは人間の特権だよね!!

「……肺と肝臓は?」
「既に熊に喰われていたからな。背の部分だ」

あ。もしかして私が捕った獲物ですか。
確かに私肺と肝臓好きだから真っ先に食べちゃうしなぁ。
黙って鍋を見つめていれば、谷垣さんが少しこちらを見た後に困ったように頭を撫でてきた。
別に落ち込んでませんから! 背も美味しいし!!

「ほれ、食え」
「食べる!!」

二瓶さんが飯盒の蓋に乗せて渡してくれる。
因みに鍋も飯盒が代わりになっている。受け取った飯盒の蓋と、そこに乗せられた食事に涎が噴き出す。
もう痛みとかどうでもいい。めっちゃおいしそう!!
木の枝を削った箸を受け取って、鹿肉を口に含む。

「……美味しい! ヒンナ!」
「ひんな?」

煮たことで生臭さがなくなった肉は、久しぶりに食べる人間の料理だった。
やっぱり血まみれも美味しいけど、人間はこうじゃなくっちゃね!!!
がつがつと箸を進めていくと、二人も鍋に箸を伸ばしていく。

その光景を見てハッとした。そういえば最近は全然人間の姿を取ってなかったから、こうして人と食事を囲むのも久しぶりかもしれない。
暖かな食事に一緒に囲む鍋。なんだか、とても嬉しくなってしまった。

笑みを浮かべながら食べる。傷口は馬鹿みたいに痛いが、とても楽しかった。

ヒンナ!