死んだかと思った。
瞼を開けて、木と葉で出来た屋根を見て、夢から覚めていない。生きているのだと理解できた。
そうして襲う強烈な痛み。痛み、痛すぎて意識が吹っ飛びそうだったけれど、でも分かる。
生きてる! 確かに私は生きている。すごい、奇跡だ。
「ッ、いっ」
「起きたのか!」
低い男の声に驚いてそちらを振り向くと、坊主頭に体毛が濃い男がいた。服装は――兵隊の服だろうか。
って、この人私が殺そうとした人じゃないか!
驚いて思わず身を捩ると、傷口がバカみたいな痛みを発する。思わず悲鳴を上げて倒れ込めば、男が近寄ってきて、私を叱った。
「下手に動くな! 死にたいのか!」
「っ、だ、だって」
だって殺そうとしたから、もしかしたら殺されるかもって……。
痛みに涙を浮かべて言えない理由を心の中で白状すれば、目に見えて困り顔をする男がいた。
男は持っていた布を私の額に押し当て、いつの間にか噴き出していた汗を拭ってくれた。
「俺が恐ろしいのは分かるが、大丈夫だ。とって食ったりはしない」
「……」
あ、え。そっちですか。そういう解釈の仕方ですか。
動揺して何も言えずにいれば、布でそのまま涙もふき取ってくれ、ぎこちない笑みを浮かべられた。
ど――どうしよう! この人いい人だ!! めっちゃいい人だッ!!!
ごめんね殺そうして! 良かった殺さなくて!! ほんとあの人には感謝するしかない! 恩人さんあざーっす!!
そのまま離れようとする男性の腕に手を伸ばして服を引っ張る。
「あの……」
「どうした?」
「ぁ、ありがと……」
よくよく見ればこの人も足に怪我をしているみたいで、足を木の板で止めている。
そんな彼を襲ったというのに、こんなに優しくしてくれて……ごめんねぇえええ!!
謝る意味も込めて服を握っていれば、優しく頭を撫でられる。
……うわぁああああごめんねえええええ!!!
「うっ」
「どうした!? 傷が痛むのか!」
違う。
とりあえず男性を落ち着けて、疲れたのでそのまま瞼を落とす。
彼は谷垣源次郎というらしい。坊主頭に厳つい顔。しっかりし過ぎな眉ともみあげから続いている髭。
一重の重い眼に真面目そうな仏頂面――そして谷垣という名前。
どこかで――聞いたことがあるような気がした。
沈む意識の中で、昔の記憶を辿る。熊でないころの、人間だったころの記憶。
そこには――彼と同じように、足を負傷したキャラクターが、私を撃った男と一緒に狼を追っていた。
そうか、ここは――ゴールデンカムイの世界だったのか。
ゴールデンカムイ
熊になってから十年後に初めて知ったわ。