- ナノ -
街の病院へ連れていく暇はなかった。
そうこうしている内に死ぬだろう。それならば十分な設備はないが、直ぐに対処した方がまだ生き残る。
運よくそこまで深く銃弾は入っていなかった。骨に当たったわけでもないのだから、幸運にもほどがあった。
まだ道具のあるテントまで連れていき、そして二瓶は――少女から銃弾を抜き取った。

痛みは撃たれたときの比ではないだろう。ショック死してもいいぐらいだ。幼い子供が耐えられる痛みの範疇を超えている。傷口を抉り、銃弾を取り出すのだ。
しかも腹は臓器が集中している。それらが傷つけられていればもう終わりだ。例え銃弾が取り出せたとしても死ぬ。
しかし少女は耐えきって見せた。二瓶の腕を掴み、歯を噛み締め、自らの傷口を凝視しながら血液が噴き出すその部位を見ながら、失神せずに堪えたのだ。

二瓶は少女の運の良さよりもその気概に驚いた。例え猟をしながら生活しているとしても、銃で撃たれ、死にかけ、それなのに治療の様子を歯を食いしばって痛みに耐えながら見つめるなど、普通の子供が出来ることではない。
そして、少女は全ての治療が終わった後に、痛みに顔を歪めながらも笑みを浮かべていった。

「ありが、とぅ、ありがとう、優しい人、私の、恩人さん……」



少女が意識を失い、二瓶が血を片付けた後、治療の様子を見ていた谷垣が二瓶へ声をかけた。

「助かるのか、その娘は」
「さてな。弾は取り出したが奇跡的にも内臓を傷つけてはいなかった。だが、体力が持たなければこのまま起きんだろうな」
「……そうか。しかし、誰がこんな娘に……」

憎々し気に顔を歪める谷垣の言葉に、二瓶は暫し口を閉ざした。
可笑しな状況だった。だが、少女は撃たれ死にかけていた。つい先ほど撃たれたような傷口に、羆の行く先にいた娘。
銃声は聞こえなかった。取り出した弾は――。

「娘っ子に聞けばいいだろう。目を覚ませばの話だがな」

二瓶は死んだように眠る少女を見つめた。

死んだように眠る