- ナノ -
勇者よ死んでしまうとは情けない。
いやぁー死んじゃいましたね。まさか私の熊生が狼に襲われて終わるなんて誰が思っただろうか。
これも全部二瓶さんたちのせいだ。彼らが良い人だったから。
二瓶さんは最後の最後にあんな約束までしてくれて、谷垣さんは私を止めようとしてくれた。
最期は別れるのが寂しくて思わず泣いてしまった。なんか卒業式みたいな。きっと彼らとはもう一生出会えないのだろうし、悲しい事この上なかった。一緒に美味しい食事をして、もう一度笑い合いたかった。うぅ、やっぱり思い出すと悲しくなる。たった数日生活しただけなのにな。濃厚過ぎたんだ全く。
だからこそ、死んでしまうと分かっていた未来を変えようとした。
もしかしたらやっちゃいけないことだったのかも。ちょっとそれが怖い。
私は悪い子になってしまったんだろうか?

『楽しかったかい?』

あ、神様。お久しぶりです。はい、とっても楽しかったです。

十年間の休暇というものはとても安らかで、自然と共に生きることが出来て満ち満ちていた。
最期の数日間はとても楽しかった。楽しすぎる程に。
恩人と言う人が出来て、優しくしてもらって、不器用に世話を焼いてもらって――情が沸いた。

『たった数日過ごしただけなのにかい?』

はい。やっぱり漫画で知ってたからでしょうか。……いや、すっごく刺激的だったんだと思います。
銃で撃たれるとか、傷口抉りだされるとか、久しぶりに食事を囲んで、楽しく食べられて。

鮮明に思い出せる。あの日々だけは休暇というよりもアドベンチャーだった。
すっごく輝いていて、昔の子供時代を思い出した。

『それは良かった』

はい。有難うございます。神様。

とても楽しかった。
そしてとても悲しかった。
でも、休暇を使っての旅行は、別れがつきものだ。
現地で仲良くなったって、連絡手段がなければその後一切合わないなんてざらだ。
そういう人たちの中に二人がいるだけ。
命を懸けて守ったけれど、行くなと引き留めてくれたけれど。
でも、私のお休みはこれで終わりだから、ちゃんと現実で仕事もしないとねぇ。

『また、行きたくなったらおいで』

え?

『次は、長い時間になるだろう。それでもいいならね』

……ふふ、それは長生きできるってことですかね。
……そうだなぁ。また、ちょっとながーい休暇に憧れたら、また来ますね。


私の神様はとても優しい。
悪い子になったらきっと手を離されてしまうんだろうけれど、それまでは私を見放さないでくれる、良い神様だ。
私はその神様に両手を振って別れを告げて、夢から覚めた。

夢から覚めた