- ナノ -
神様が夢に現れて、あの世界へ遊びに行ってみたいか?と、とても優しげな顔で聞いてきたのだ。
私は、なんだかいい心地で、穏やかな夢だなぁと思いながら、その指し示された先がふわふわな雪がこんもりと積もった銀世界で、雪国に住んでいるわけでもなかったから、遊びに行ってみたいですねぇ、と答えたのだ。
神様はうんうんと頷いて、じゃあ行っておいで。でも悪い子になっちゃいけないよと手招きをした。
招かれるままにふらりふらりと足を進めて、銀世界を視界いっぱいに移したところで夢は途切れた。

そんな感じだったから、夢か夢かと思ってはいたけれど。

熊に生まれて1年後、ようやく流石に夢ってだけじゃないと自覚してきました。


もふもふの毛並みで覆われた身体と巨大な母熊。暗い洞窟の中で母熊に乳もらったりなんだりとして過ごした1年間。
自分が生まれてずっとそんな生活をし続けて、夢なのに体感が凄く遅いなとか、いつ夢から覚めるんだろうかと思ってはいましたが、全然夢から冷めないし、熊だし、母も熊だし、なんか外は銀世界の雪景色だし、山だし。それであのへんてこな夢からのこれだし。
ちょっと可笑しいなと思い始めました。
なのでちょっと母熊に聞いてみたいと思います。

「おかーさん。ここってどこな」
「ウガアアア!」

うわああああああ!!??



とりあえず話せたので人語で話しかけた瞬間威嚇のような純粋に驚愕のような叫び声を出されたのでそれ以降人語で話すのやめました。ブブブブブって鳴いてます。母熊も返してくれるけど何言ってるか雰囲気だけで詳しいことはわかりません。ごめんねお母さんびっくりさせちゃって。
しかし母熊に言葉が通じないと分かってから自力での情報収集は難しいかな、と思ったので。

そのまま母熊にお世話になり野生熊として生きること3年……。


私も立派な大人熊になりました。
木の実食べたり鮭とったり。楽しかったです。なにより自然しかないのがいい感じ。都会に荒らさせた心が潤うようでしたね。
でも時折聞こえる銃声やらがあったので、多分人間もいるっぽい。人と話せたらなーなんて思いながらも独り立ちの時期になり私も母熊のところから巣立った。
ああ、お母さん!今までありがとう!お達者で!!

そんなこんなして一人でぼちぼち生きていたら人間にばったり会いました。
しかしそれは現代人でなさそうだった。いわゆるアイヌ人というのだろうか、そんな現代日本の人間とは少し違う風貌と古めかしい服装に驚いた。が、その後にそのアイヌ人に殺されかけてさらに焦った。
わたし何も悪いことしてないのに!!!!

しかしそんなことは関係ないのかギラギラした目で追ってくるアイヌ人たちをどうにか撒いて、安心する。
そんな生活が1年ほど続き、私は閃いた。
あれじゃね? 人間になれば襲われなくね? と。
私は人語が操れる。なら人になれないことは無い。たぶん、きっと。
冗談半分でうんうんと一週間便秘の状態みたいにいろいろ絞り出した、ら。
出来た。

やばくね? もしかして私天才なんじゃね? と思ったが死にかけた。
一応容姿はアイヌ人を基礎とした。敵認定されたくないから、似ている方がいいかと思ったのだ。それからなんとなく自分自身にも似た気がする。
それから、服も一緒に出現した。どういう原理なのか実際分からない。しかし合って悪い事じゃないので有り難く使わせてもらう。これもアイヌ人が来ていたものがモチーフになっている。

でもね。とんでもない欠点あったんですこれ。
熊生を得たのがちょうど4年ぐらい前。そして人間になった私の身体年齢……4歳。
死ぬ!! この極寒の中で服着てたって四歳児だぞ! 死ぬ! っていうか普通に熊の時は一メートル越え余裕ですな巨体なのになんで人間になるとこんなに縮こまるの!? 体積可笑しいよ!! それ言ったらそもそも熊に成れるのが可笑しいんだけどさ!!

とりあえずそんなわけなので人間姿は封印。なんだかんだ4年間も熊生を生きているので熊姿の方がこの土地的にはしっくりくる。
あ、あとアイヌの人がいるってことは現代じゃなくて過去なんですかね。あとここ北海道?

あとここ北海道?