- ナノ -
白い狼は来た。
しかも正面から、確かに少女を助けに来たのだ。
二瓶が銃を構える。その照準が狼を捉えようとするが、対して狼は照準が定まらぬようにジグザグと高速で移動し距離を詰める。

「すばらしい……最後の狼にふさわしいぞ!」

狼が迫る状況下で喜びの声を上げる二瓶に、狼が肉薄する。

「レタラ来ちゃだめ!」
「来い!!」

ほぼ同時に発せられたその声と、飛び上がる白い狼。
その鋭い牙が二瓶の首筋へと襲い掛かり――血が飛び散る。

だがそれは、首からの出血ではない――怪我をし、腕に巻いていた布に狼が食いついたためだった。
二瓶は咄嗟に襲い掛かる狼へ腕を差し出したのだ。

そして、二瓶は銃口を狼の胸元へ突きつける。
場が制止する。

「俺の勝ちだ」

そう、口にした瞬間に――

「あぁああああああ!!」

叫び声が高らかに響き――それは幼い少女のものだった。だが何処までも高らかで、獰猛なほどに荒々しいものだった――二瓶が引き金を引くのも忘れ振り向いたその時

二瓶と木につるされた少女、そして、狼は見た。

衣服を毛皮に変化させながら、もう一匹の狼から二瓶を庇い襲い掛かられている少女を。

生江