- ナノ -
暇すぎて二瓶さんと谷垣さんを追っかけたら、ちょうど熊を解体している処で吃驚した。
いやー私もこうなってたかもしれないのかーなんか感慨深いなぁー。
顔をみたらかなーり怖い顔をしていたので、なんだかいずれ人を殺しそうな子だなーと思った。もしかしたら私もついこないだまでこんな顔をしていのかもしれない。他人事じゃないなぁ。
二瓶さんと谷垣さんの獲物運びを手伝って、家まで戻る。
仮住まいではないきちんと木で出来た広めの(といってもやっぱり小さいが)家へもってきて、いざ調理開始である。

「その前に生江は包帯を変えるぞ」
「えっ、いいよ。大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう。どうして痛いだろうに無理に動く」
「暇だったから」
「……」

あ。谷垣さんが黙ってしまった。
仕方なく服を上げれば、中々グロイ感じで血がにじんでいる。
包帯を外していく谷垣さんにふと思いついて口に出す。

「いやーん谷垣さんに乱暴されるー」
「……」

うわ、睨まれた。怖い。

「ははは、勃起か谷垣!」
「ぼっきか谷垣!」
「少し黙りなさい」

二瓶さんに乗ったら怒られた。私は二瓶さんに乗っただけなのに。
と思っていたら二瓶さんも谷垣さんに睨まれてた。笑った。



「ニヘイゴハン! 心臓焼きましたッ!」
「きゃー! 心臓だー!!」

ぶっちゃけ同胞の肉を食うのはどうかと思ったけど、まぁ今は人間だし!
勢いよく食べてうまい!と感想を漏らす二瓶さんの横に控えておこぼれをもらおうと眺める。
が、そのまま谷垣さんの方へ心臓が渡ってしまい、そんな薄情な! と言いながら谷垣さんの隣へ移動した。
その間二瓶さんは新たな調理を始めていた。二瓶さんが説明をしながら調理してくれるので頷きながら聞く。しかしその工程を見てハッとした。

「ニヘイゴハン!! 血の腸詰め!」
「(ソーセージ!!)」

紛れもなくソーセージだった。この世界でソーセージを拝めるなんて! と感動していれば、心臓がこちらへ回ってくる。

「ありがとう!」

心臓が串刺しになった枝を受け取って、喜々として口に含む。
感触が歯に伝わり、引き千切って噛むと血の味が口いっぱいに広がる。

「血の味がする! 美味しい!」
「こっちも食べてみろ!」
「そー、間違えた。腸詰め!」

二瓶さんから受け取って一口頬張る。大きなソーセージに苦戦しつつも、味わえば口に広がる血の味。

「血の味! 美味しい! ヒンナ!」
「勃起!」
「ぼっき!」
「……」

あ。谷垣さんに睨まれた。

もぐもぐと美味しい食事を食べる。
なんとなく、食べていると自分が死んだ後を想う。
同胞の血肉だからだろうか。私も死んだらこうやって誰かに食べてもらえるのだろうか。
そうだといいなぁ。寿命で死ぬのが一番いいんだろうけど、殺されて死ぬんだったらちゃんと食べてほしい。食べて覚えていてほしい。

そうやって食事を堪能していると、なんだか難しい話をしていた二人の会話が一段落したらしい。
といっても、内容はなんとなく知っている。狼を獲ったら故郷へ帰れという二瓶さんと、それを受け入れたらしくそれまで被っていた軍帽を火に投げ入れる谷垣さん。
それを見ていて、なんだか私も故郷に帰りたくなってしまった。とても充実しているけど。やっぱり自宅もいいものだ。

「お前は帰らないのか?」
「え?」
「両親がいるだろう。いつまでもここにいられないだろう」

谷垣さんがそう聞いてきて、眼を瞬かせた。二瓶さんもこちらを向いている。
そうか。二人にとっては私は村に帰らない家出娘なのか。
心臓の最後の一口を口に含んで嚥下した後に、ポツリと言う。

「まだ……いい」
「……そうか。だが俺たちはこれから狼を狩る。連れてはいけないぞ」
「いい。待ってる」

二瓶さんの言葉に頷いた。
私はまだ帰らない。家に帰りたくなったけど、今はこの生活が楽しい。
命を取られそうになって、命を救われて、美味しい食事を囲んで取ってる。
楽しい。この生活が。この人たちが好き。

「お世話になります。恩人さん」
「お前は何故、俺のことを恩人というのだ?」

口にソーセージを突っ込みながらそう聞いてくる二瓶さんに、直ぐに答えた。

「だって、止めてくれたから」
「傷口はまだ塞がれてないぞ」
「うん。ふふ」

直ぐに谷垣さんに言われて、思わず笑いが零れる。
まだお腹は痛い。とても痛い。恨んでもいいぐらい痛いけど、やっぱり感謝しかない。
だって、悪い子になっちゃうところだったから。
だから二瓶さんは恩人。私を止めてくれて、更には治療までしてくれた恩人さん。

「……あっ、お前心臓全部食ったのか!」
「だって二人が喋ってて食べないから」
「だからって全部食うやつがあるか! お前は狩りにも来なかったろうに!」
「げふっ」
「お前……!」
「ははは! 二瓶さん変な顔ー! ぼっき?」
「勃起だ!」
「子供の前でそれをいうのはやめろ」

二瓶さんに頭をわしゃわしゃとかき混ぜられて、笑い声をあげながら突進する。
難なく受け止めた二瓶さんに、抱き着きながら、やっぱり楽しいなと思った。

ぼっき?