- ナノ -
「クレイ、私もロボット欲しい!」

我儘を言った自覚はあった。
だって、ずるいじゃないか。ガロには研究室で余った端材で作ったというロボットを上げていたのに、私には何もない。

「エマは女の子だろ? ロボットは別に要らないんじゃないか?」
「そういう問題じゃないし、女の子でもロボットは欲しい!」

最初は我慢しようと思ったのだ。確かにロボットは男の子のロマンだよね、ガロも楽しそうだし、と。でもガロがあんまりにも嬉しそうに自慢してくるから、耐えられなくなったのだ。
私だってロボットが欲しい。ロボは人類のロマンだ。私はリオデガロンもクレイザーXも凄くかっこいいと思う。私も動かしてみたいのに。
我儘を言わないようにしていたけど、していたけど、これぐらいいいんじゃないかと思ったのだ。だって、この生活も結構経った。だから、笑っていいよと言ってくれるかも、そう思って。

でも、そうだ。
クレイは言ってくれない。
思い出して、これは、ちょっと苦い記憶だ。
調子に乗ってしまった日のことだ。ガロが羨ましくて、頼れる大人として彼に願ってしまった。

見上げれば、クレイは困った顔をしていた。手には書類を持っている。いつも執務室にこもっている時間だった。私ははっとして、俯く。彼のことを何も考えずに我儘を言ってしまった。
少し待ってもクレイは口を開かない。チラリと表情を伺えば、どうなだめようか考えている顔をしていた。

「……嘘」
「エマ?」
「嘘、ロボットは、別に欲しくない。……邪魔してごめんなさい」

ちょっと、いや、結構泣きそうだった。
何を私は子供っぽいこと言ってるんだろうとか、私はクレイのこと好きだけど、クレイはそんなことないのかなぁとか。いろいろな感情が混ざって、結果的に落ち込んだ。
だから謝って誤魔化せば、クレイは「そうか」とだけ言った。
クレイはこの時研究に忙しくて、正直ガロのロボットも研究が忙しすぎてストレス解消の意味を込めて作っていたような気がする。だからガロにロボットを上げたのは思わず完成してしまったからであって、追加でロボットを作る暇などその時のクレイにはなかったのだ。
ロボットをガロにあげたのは、ガロは男の子だから。弟だから。私がもらえなかったのは、お姉ちゃんだから。
知ってる。分かってる。でも、悔しいものは悔しいのだ。

クレイはそのまま去っていく。私はこの後、ガロがロボットで遊んでいるのを眺めながらなんとなく切ない気分に浸るのだ。
そう思っていた。いや、事実そうだった。
けど、なぜかクレイは立ち去らなかった。その場に経ったままで、あまりにも動かないので思わず私が彼を見上げた。
クレイは何か想うような顔をしていて、そしてゆっくりその場に膝をついた。驚いて目を瞬かせる。彼はそんな様子の私を見て、何か言いづらそうに口を開いた。

「……私のロボットなんかでいいのかい」

またまた驚いた。驚いて、でもふつふつと希望が吹き上がってくる。私はにやけそうな顔をどうにか押し込めて首を何度も縦にふった。

「家だと、そうだな。牛乳の空箱とか、ペットボトルとか、段ボール製になってしまうが」

牛乳の空箱、ペットボトル、段ボール!
とっても素敵だ。子供が作るロボットだ。そういうの、一度欲しかったのだ。

「それでもいいかい」

再度問いかけてくるクレイに、私は思わず破顔して告げる。

「うん! クレイの作ったのがいい!」
「じゃあ、一緒に作ろうか」
「ほんと? やったぁ!」

諸手を上げれば、クレイが少しだけ微笑んだ。そういえば、今まで笑っていなかった。笑みも相まって喜びで胸がいっぱいになる。
これでガロとお揃いだ。二人で一緒に遊べるし、そうだ。クレイの分も一緒に作ってもらおう。そしたら三人で遊ぶことだってできる。
喜びのまま、クレイに手を伸ばす。それに、クレイの目が僅かに開いた。ゆっくりと、クレイの手が伸びてきて、私の手を掴む。温かい、暖かい掌だ。

届かなかった手が、ようやく触れられた気がした。