- ナノ -
やっちまったーーーーーーーーーと、後悔しても仕方がない。仕方がないのだが、もう後悔の念しかない。悔恨だ。滅殺開墾ビームだ。いや違う。
あの後、私は文字通り燃え尽きた。火柱になって、火元であった私は火の粉となって散ったのだ。灰にならなかったため死体も何も跡形もなくなったが、それでも目撃者はいるし、現場もあの有様だ。
次の日には警察がきて、エマ・ティモスはバーニッシュであったと認定された。ガロは終始不安そうにしていて、姉ちゃんはどこ、どこに行っちゃったの!? と泣き叫んでいた。
警察は無慈悲で――こういう事件はかなり多いのかもしれない――君のお姉さんがバーニッシュだったんだよ。と告げた。そしてその中でぼそりと、そういえばティモス家はバーニッシュ火災でご両親が亡くなられたんですよね。と言っていた。ガロは聞こえていたらしいが、どういうことか分かっておらずただ私がいなくなってしまったことを受け入れられずに涙を流し続けていた。

数日後、紙面に載っていたのはバーニッシュ火災のことで、ティモス家のことだった。
『未解決事件であったティモス家のバーニッシュ火災の原因は子供のバーニッシュ発作が原因と判明』。
まぁ、そりゃあそうなるよな。という記事だった。バーニッシュ火災で家が消失し、犯人らしき人物もこれといって見つからず、引き取られた子供が発作で燃え尽きたのだから、その子が発作を抑えきれず家を燃やしてしまっていたのだろうと思われて当然かもしれない。

クレイは、クレイは何も言わなかった。食事もしなくなったし、ずっと部屋にこもっていた。けど、ガロの世話をしなくちゃならなかったから、最低限ガロの食事を作ったりはしてくれていた。
クレイはガロに記事を見せなかった。

もう、なんというか、ごめん……。いや本当、申し訳ないとしか言えない……。
いやバーニッシュになるのは本人の意思じゃないんだよ。発作もさ、抑えられなくてさ。病気とおんなじだからさ、どうしようもなくて。いやだから……本当に申し訳ないと思っておりますよほんと。

はい、生きております。まぁ生きてなきゃこんな今の状況もわかりませんからね。もう生きているのが申し訳ないぐらいですけど、ぴんぴんしております。
といっても身体はない。あの時に崩れ去ってしまってから、私の身体は消えてしまったのだ。ならどこにいるのかといえば……クレイの体の中だったりする。
どういう事だと思うが、つまりクレイもバーニッシュなのだ。プロメアと共鳴している。マントルからやってくるプロメアを通じて身体に炎が存在しているのだ。で、火の粉になった私はそのクレイのプロメアの中に同化してしまったらしいのだ。
手を伸ばされたとき、掴めなかった手のひら。しかし小さな灯の欠片になり、私はその手に触れてしまった。気付いた時にはクレイの中にいて、クレイのプロメアの一部になっていた。

きゃらきゃらと楽しそうなプロメアに歓迎されたときは正直悲鳴を上げた。が、別にプロメアたちは本当に歓迎しているだけで、別に害そうとかそういうのもなく奇妙な共同生活めいた空間ができてしまっていた。
普通に自我もあるし、外の様子もわかる。ただ人の形はとれない。それが私のバーニッシュとしての力が弱いためなのか、それともクレイがプロメアを強く押し込んでいるためなのかは分からないが、散々試して分かったのはこのままクレイのプロメアの一部として過ごしていくしかないということだった。

因果応報というか、なんというか。
悩んでどうしていいか分からず暴走した結果、本当に何もできないところに押し込められるとは。
落ち込んでいれば、プロメアが慰めてくれる。うう、ありがとうプロメア。でも君たちがやってこなければこんなことにはならなかったんだよ……。いや君たちも時空断裂とかいうものに巻き込まれただけなのは分かってるんだけどさ……。

ゆらゆらと炎と同化していれば、クレイを通して外の世界が見えた。
それはそれは絶望に彩られていそうで、見ていられずに目を閉じた。




目を閉じると、次に目覚めるのは数日後だったり数か月後だったり、下手をすれば数年後だった。
プロメアの中にいると意識が薄れるのか、自意識の境界が薄まるのか、なかなか怖いものだ。でも、正直有難くもあった。クレイが苦しんでいる様子をみるのが減るという事でもあったから。
起きているときに見る光景は、昔と随分変わった。学生だったのが白い服を着て民衆を見るようになり、小さかったガロは目の前からいなくなって、時折現れてはびっくりするぐらい大きくなっていた。
クレイはガロを施設に入れたらしい。そういう約束だったから驚くこともないが、なんだか寂しさを感じる。お前が言うなという話だが。

外に干渉できない私は、何をするでもなく外を眺めたり、プロメアと遊んだりしている。
でも、時折我慢ならなくなって声を出したりもした。例えば、こういう時。

クレイは司政官になっていた。映画通りだ。
建築方式が謎の高いビルの、飛び出た部屋を執務室としているらしいクレイ。ここがロボットになるのか、という謎の感動を覚えつつ、それはそうとして。
執務机には引き出しがある。そこには大事な書類とかがしまってあるのだが、その中に一枚の写真がある。それはだいぶ古くなってしまったもので、でもそこに映っている三人は笑顔だ。ガロとクレイと私の写真。三人で暮らしていた時に撮った写真だった。無邪気な笑顔のガロと、可愛く撮れるように決め顔をしている私と、にこやかなクレイ。

『……クレイ』
『クレイっ』
『私、ここにいるよ、死んでないよ。クレイの中にいるの』
『ねぇ、そろそろ気づいて。クレイ、寂しいよ』
『クレ「うるさい!」

「煩い、黙れ、化け物め……!」

きゃらきゃらと周囲のプロメアたちが笑っている。
何度か、何度も、こうして話しかけたことはあった。けど、どれもこれも会話としては通じていないらしく、たぶんだけど私の声もプロメアと同じく笑い声とかに聞こえているんじゃないだろうか。
だから、クレイは話しかけても左腕を抑えてこうやって罵声を零すだけだ。明らかに苦しんでいるのが分かるから、こうなってしまったらすぐに黙るようにしている。
通じない、伝わらない。それは随分前に分かっていたことだ。でも、やっぱり、悲しいものだ。