- ナノ -



ホテルに十一時ピッタリに到着し、ホテル内では走れずに早歩きで部屋に戻ること五分。
出迎えた深津は「五分の遅刻ピニョン。外周五回追加」と淡々と告げてきて冷や汗が流れた。
部屋に戻る時間まで考慮に入れていなかった。いや、見て見ぬふりをしたというべきか。
謝罪をすると「冗談ピニョン」と真顔で言われたため、冷や汗は止まらなかった。本当に冗談なのだろうか。
それはそうと、俺が外に出た後に「ホテル周辺の治安が悪いため、あまり外に出ないように」という通達があったらしい。わざわざ出迎えてくれたので何かあったのかと思ったら、心配してくれていたらしかった。にしても治安悪いな神奈川……。
礼の言葉も追加しながら、特に何もなかったと伝える。部屋に備え付けられたシャワーを簡単に浴びて、その日はさっさと寝ることにした。
何はともあれ明日からは試合なのだ。体は万全にしておかなければ。

翌日。先に試合があるのは神奈川だった。
準備を整えて試合を観戦しに行く。その試合のポイントガードは海南の牧だった。
同じ三年の俺がいうのもなんだけど、確かに高校生には見えない。なんというか、いい意味で貫禄がすごい。
その圧は相手も感じているのか、動きが鈍くボールが渡っていってしまう。その試合、神奈川は二十点差以上をつけての勝利を収めた。

「調子良さそうだな」
「そうだな。牧を中心に連携もうまくいってる……」
「なんだ。何が気になることでもあるのか?」
「いや……選手交代はしないんだなと思ってな」
「次の試合に向けて温存させておきてぇのかもな」

試合に出すというのは手の内を明かすことでもある。試合が続いていくのだ。控えの選手たちの試合風景を見せないというのも一つの手だろう。
ベンチにいたパーマの青年を見る。彼の試合風景を見るのはいつ頃になるだろうか。
席を立って次は自分たちの試合だ。
結果は言うまでもなく勝利。百点ゲームとなった。皆やる気が違う。特に海外へ行っていた後輩については。

「コートに立ち続けるには負けてられないっすからね」
「ふ、心強いな」
「もー気合い入れてくださいよ!」
「俺はお前と違っていつも気合い入ってる」
「あ、そういうこと言う!」

口を尖らせる後輩に笑いながらも、言葉に嘘はない。
と言うよりも、いつもより気合いが入るのがわかる。この大会が沢北と共に山王として――秋田代表ということではあるが――コートに立てる最後の機会だ。気合が入らないわけがない。そして、たされてしまった勝たなければならない理由もある。
負けてなどいられない。そんな暇は俺たちにはない。
| #novel番号_目次# |