――何時からかな
無造作に束ねられた赤い長い髪を好きになったのは。

女の人と見間違えるほど綺麗な横顔から目が離せなくなったのは。

少しだけ悲しみを隠したその柔らかな笑顔がもっと見たいと思ったのは。

色んな事を見てきたその優しい瞳に映してほしいと思ったのは。


――何時からかな
私の心があなたの緋色一色に染まったのは。


―緋色に寄り添って―



何時もなら朝から弥彦や門下生の子供たちに稽古を付けて、しっかりと汗をかいて稽古が終わる頃に剣心がお昼御飯を作って待っていてくれる。
たまに弥彦も一緒に、三人で食事をして一息付いたら剣心と二人でお買い物に行ったり、近くの川辺まで散歩に出たりする。
日が傾き始めた頃、干しっぱなしになっている洗濯物の事を思い出して慌てて帰る日もあったり。
日が暮れたらまた一緒に食事をして、今日あった出来事を話す私に相槌を打ちながら付き合ってくれる。
そして、剣心の温かさに包まれて、瞼に落とされた優しい口付けの魔法にかかって眠りにつく。

当たり前の様な毎日で、でも私たちには一日でも長くあってほしいと願わずにはいられない、そんな日常。


***


横浜で起きている連続強盗の犯人らを逮捕する為に、署長さん方の頼みで剣心が向かうことになったのが五日前。
その時見送った後ろ姿はいつもの緋色ではなくて。


「薫殿、明日から向かう横浜へは前に薫殿が仕立ててくれた紺藍の長着を着ようと思うでござるよ」
「えっ?」
「折角、薫殿が仕立ててくれた故、着たいなと」
「あ、うん。わかった!出しておくわね」

横浜へ向かう前夜、寝支度を調えながら剣心がそう言った。

翌朝、紺藍色の長着に袴姿の剣心は心配せずとも、直ぐに帰ってくるからと、きつく抱き締めてくれた。
ふわりと下ろしたばかりの長着の樟脳の匂いの後に、お日様の様な安らげる匂いが鼻先を掠めた。
剣心は私の心配な心も寂しさも全部お見通しで、耳元であやす様な声が聞こえた後、私はいってらっしゃいと、精一杯の笑顔で見送った。




「今日も……まだ帰ってこれないかな」

お日様の下でからりと乾いた洗濯物を居間で畳んでいる時だった。
何気無くぽつりと零れた言葉がやけに居間に響いて大きく聞こえた。
手の中には剣心がいつも着ている緋色の長着があった。
畳へ広げたら、そこにはまるで剣心の姿が在るような気がして、自然と吸い寄せられる様に身を預けてみた。
目の前に広がる緋色をきゅっと握り締め、そっと目を閉じるとふわふわと暖かいお日様の香りに包まれた。
剣心と同じ匂い――――
何だか嬉しくなって握った長着を、思わず少し緩んだ口元に寄せた。
さらりと長着の生地の感触が唇に残って名残惜しくなった。

「剣心、早く帰ってきてね……」

見送る時に本当は言いたかった言葉。
でも、心配をかけたくなかったから言わなかった。
今だけ……この緋色と私だけの秘密。



それから半刻程して、門先に一台の馬車が停まった。
中から出てきた剣心は僅かな荷物を抱えていつもよりも早足で門をくぐった。

「薫殿ー、ただいまでござるー!薫殿ー」

全く返答もなくしんとした母屋でおろ?と首を傾げていた。
いつもならおかえりーと明るい声と同じに、軽やかな足取りで玄関先まで駆けてくる薫の姿があるはず。
道場も覗きに行ってみたが、物音一つしない神聖な空気だけがあって薫の姿はなかった。

「買い物にでも行っているでござるかな?」

帰って一番にその人の笑顔とお帰りなさい、その言葉を聞きたかったのだがなと少しおあずけを食らった気分になりながら何気無く庭先へと足を向けた。

見慣れた風景に、たった五日しか此処を離れていないのに懐かしさと愛おしさが込み上げてきた。

ふと、立ち止まり庭先から居間の辺りへと視線をやった。

「か、薫殿?」

目に飛び込んできたのは細く寝息を立てながら穏やかな顔で眠っている薫の姿だった。
少し身体を丸めて、手には緋色の布の様な物を握り締めていて……。

縁側まで歩み寄り、薫が手に握り締めている緋色の正体が解った。
――――拙者の長着……?

「留守の間、こいつが拙者の代わりになったのでござるか?それにしても長着のくせに、羨ましいでござるな……」

畳に無造作に広げられた緋色にくるまる様に身を預けた薫の姿を見て思わず顔が綻ぶ。

もう少しこの愛おしい姿を見てから、目覚めた彼女に大好きな笑顔でお帰りと言ってもらうのもいいなと思う。


――何時からだろう
高く結い上げた黒い艶やかな髪が素敵だと思ったのは。

凛とした姿で真っ直ぐ前を見ているその横顔から目が離せなくなったのは。

思いを込めて流してくれた綺麗な涙を、ここから歩む道を教えてくれた笑顔を守りたいと思ったのは。

その曇りも迷いもない素直な瞳を掴まえていたいと思ったのは。


――何時からだろう
桜色の君の心ごと欲しいと思ったのは。


緋色に寄り添った君の姿
これからもずっと離れない様に。



緋凪 奏心












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ちょ、読まれましたか奥さんんん・・っ///!!(興奮)

日頃お世話になっている奏心さんが、当サイトのあるイラストをもとにして書いてくださいました・・(゚Д゚●)ほあああ///;

そのイラスト、描いたの昔過ぎてアップしようか迷ったんだけど、アップしてよかった・・(心底)

イラストの背景ストーリー的なものはいつも考えるのですが、なかなか文章にしておこすのは難しく・・、いつも断念してしまうのです。
なので、物書きさんってほんと憧れるんですよね。
(*≧m≦*)

奏心さんもそのひとりです!
そんな方に書いていただけるなんて、・・ほんと、幸せもんだよ・・///

内容的にはピッタリというか、私の想像以上のキュンシチュエーションで、むああああ///;となっております(//∀//)

奏心さま、この度は本当にありがとうございました・・!!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!^^*

サヤ




もとになったイラストはこちらです。

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