10000hitリク 二人の時間(鬼豪)
2010/12/05 01:37





日も完全に傾いた初夜の闇、街灯の光にぼんやりと映し出される影が二つ。部活も終わった学校帰り、影の主達は冬を迎えた冷たい空気の中を、やけにゆっくりと歩んでいた。かじかんだ手を晒し、首には気休めのマフラーを巻き付け、白い吐息を漏らしてはその湯気を見つめる。

「寒いな」

風邪気味の鼻声で静かに口を開いた鬼道は軽く鼻を啜る。寒さに負け、口を開くのも億劫になってしまっている豪炎寺は、黙って頷くのみ。
二人共、寒さにはとことん耐性が無いのだろう。冷風が身体を殴り去って行く度に二人は身震いし、鬼道はおまけにくしゃみも出す。冷えすぎた耳が痛み、暖めようと触れた手もやはり冷たい。豪炎寺が落胆と共に腕を下ろすと、隣で揺れていた鬼道の手に軽くぶつかった。

「え、と……すまない」

「き、気にするな」

僅かな接触にも関わらず、心臓は跳ねる。気まずい空気が流れ、今までの沈黙とは質量の違う静けさが漂い、呼吸を繰り返すだけにしても気を遣ってしまう。

手を繋ぎたい。学校の正門を出た時点で二人共が抱えていた感情だった。しかしそれをなかなか実行に移せぬまま、帰路のほぼ三分の二を歩いてしまっている。
思春期真っ只中の少年にとって、手を繋ぐのは存外に気恥ずかしい事だ。しかし幸いにもきっかけは出来た。繋ぐなら今しかないと鬼道は手を伸ばし、それを察した豪炎寺もおずおずと手を差し出す。煩い鼓動を感じながら指先を触れ合わせ、少しずつゆっくりと指を絡めていく。

「うわあっ」

が、突然に鬼道のズボンのポケットに収まっていた携帯電話が震えだす。鬼道は驚愕する。つられて豪炎寺もびくりと反応し、触れていた手も、残念ながら振り出しの距離に戻る。

「あ」

どきどきと強く拍動を繰り返す心臓が、だんだんと落ち着きを取り戻す。鬼道は一つ息を吐き出した後で、離してしまった手に気付いて小さく声を漏らした。その間抜けな表情と声音に、豪炎寺は笑う。なるべく声を抑えるが、それは少しも濁ることなく鬼道の耳へ届いた。

「……笑うな」

不機嫌に眉を寄せた鬼道の咎めに対し、笑声は一向に止まる気配がなく、それどころか余計に大きくなっていく。普段あまり声を出して笑う事の無い豪炎寺がこれ程まで笑っているのは鬼道にとっても珍しく、喜ばしい。その上想いを寄せる相手の笑顔、可愛いと思うのもあたり前の感情だが、やはり面白くない。
先程まで触れていた豪炎寺の手が、今は口元に添えられており、笑う声にあわせて白い吐息が手の隙間から逃げ出して行く。鬼道が勢いでその手を取れば、響いていた声は一瞬にして消える。手に力を込めれば、頬は一気に赤く染まった。

「笑うな」

「ごめん、なさい」

勝ったとばかりに唇をつり上げ、取り出した携帯電話の受信履歴を確認すれば、ディスプレイに映し出された時刻はいつもならもう二人共帰宅していてもいい頃で。それでもまだ当分自宅は見えそうも無く、気が付けば夜空には星が幾つか顔を出していた。
冷たい空気の中で宝石のように輝くそれらを見上げながら鬼道は再度、鼻を啜り、羞恥に耐えるように俯く豪炎寺の姿を横目で確認して小さく笑った。
冷えていた手が、いつの間にか暖かい。

「あったかいな」

穏やかな声が耳を擽り、熱を生む。暖かいどころか少し熱いと、豪炎寺は内心で呟いた。
二人はまた一段と、歩く速度を鈍らせる。







…………

リクエスト五つめ消化です!
リュカ様から頂いた、ちょっとお馬鹿で可愛い鬼豪と言うことですが、お馬鹿でもなく可愛くもない気がしてならないですすみません。いやしかし鬼道さんが夜這いや覗きを出来る度胸があるとは思えなかったので、そっち路線のお馬鹿は書けなかったです。
リュカ様、こんなものでよろしければどうぞ!この度はリクエストありがとうございました!!



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