笑った君が好き
彼の細い背中に抱きついたとき、昔おぶってもらったときよりずっと背中が大きくなっていたことに気づいた。
こんな些細なことさえも久しぶりなんだね…、とぼんやり考えて、さらに彼の首に回した腕に力を込めた。
「…葉子…?」
「あのね、」
思い出したことの全てを話そうと思った。けれどその全ては語りきれなくて、言いたいことが溢れて涙まで溢れてきた。
…まさか、またこうして元就くんと平和な世界を生きることができるなんて、わたしはなんて幸せを手に入れたのだろう。
「…思い出したのか…」
「っ、うん、!」
嗚咽のせいで頷くことしかできないわたしの背中を軽く撫で、彼は立ち上がった。そしてまだ座ったままのわたしの手を引き、立ち上がらせると、部屋へ向かう。
「も、となりくん…?」
すとん、とソファに座らされ、わたしは彼の行方を探す。たくさん、喋りたいことあったのにな…。
それからしばらくしてわたしの前に現れた彼は、わたしに向かって何かを投げつけた。
「…え?何、これ…?」
「貴様にやる」
「え…?」
よく見たら、綺麗な箱で、もしかしたら、とわたしに小さな欲が出る。
…だって、これって…
わたしは唾を飲み込み、そっと箱を開け、また泣きそうになった。
「結婚してやらぬでもないぞ」
「も、元就くん…!!」
ぎゅ、と指輪の入った箱を握りしめた。こんな奇跡があるんだね。今度こそ、元就くんと一緒に歩ける。
「…返事は」
「も、もちろんっ!これから、よろしくお願いします」
わたしがそう言えば、元就くんは満足そうで、嬉しそうな顔をして、わたしの頬に唇を寄せた。
その柔らかい体温に目を瞑る。
…元就くんは、こんなわたしのことを、ずっと覚えていてくれたのだろうか。
わたしは、わたしのままで、いることができているのだろうか。