おかえり、わたし


ば、と布団から飛び起きたとき、わたしは涙を流していた。どうして泣いてるのだろうと、目を擦り、携帯を手探りで探した。やっと見つけたそれで時刻を確認したとき、わたしはようやくここが自分の部屋であることに気づいた。

全てを思い出したわたしは、戻ってきたことに安心した反面少し惜しいとも感じてしまう。
だってあの姿の松寿ま…あ、いや元就くんもかっこよかった。
にやにやしてしまう自分の頬を軽くつねって、スーツの皺を伸ばした。

時間は、わたしが眠ったあの日とちっとも変わっていない。けれど、わたしは今までの日々を忘れたりはしていなかった。むしろ様々な記憶がわたしの脳を横切っていくのだ。あぁ、そういやこんなこともあったな…なんて。

まだ、彼は帰って来ていないとわかっていながら、彼の部屋へ向かった。

今まで暮らしていた家が懐かしいと思うなんて不思議だ。

それから彼の部屋にある一輪の花を見て、思わず泣きそうになった。

「…変わらぬ、愛…」

鳥肌が立って、全ての感情が心を騒がせた。泣き出しそうになるが、決して悲しいわけではなくて、ただ嬉しくて…。

と、玄関から無機質な音がして、この部屋の主が帰宅したことを告げた。わたしは本当に久々に玄関まで向かい、靴を脱ぐ、彼の背中に抱きついた。

「松寿丸さまっ!」

「なっ?!」

首に回した腕に力を込める。
これほどまでこの人に会いたいと思ったのはいつぶり だろうか。こんなにこの人が好きだと感じるのは、いつぶり、だろうか…。

「…葉子…?」

「…思い出したよ」

困惑した彼の声を遮るようにに、わたしは話を始めた。

「長い長い、夢を見ていたの」

「……!」

「ただいま、…元就くん」

あの宝石のような日々を、忘れたりなんかしない。




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