人は変わるもの
それからあの子犬はうちの家で飼うことにした。名前は幸村くんに似ているので小さい幸村くん…小さい幸村…小さい幸村…子幸村…子幸…?というわけでそのまま子幸なのだが、これを幸村くんに言えば彼は顔を真っ赤にして家へ帰って行ったし、佐助くんは幸村くんが面白かったのか、それとも名前が面白かったのか、お腹を抱えて笑っていた。
「じゃあ、おばあちゃん、子幸、行ってきます。」
「気をつけてな」
子幸とおばあちゃんに見送られ、あたしは幸村くんの家へ向かおうとしたのに、門の前に立つ見慣れた後ろ姿。
「……幸村くん?」
「……なっ、壱子殿?!」
…ここはわたしの家の前なんだからあたしがいるに決まってるのに何驚いているのだろう。と不思議に思いつつも門を開ければ、幸村くんは何やらもじもじしておられる。
「べ、別に壱子殿を迎えに来た訳ではないでござるよ!か、勘違いしないで欲しい!」
「…………じゃあ、何でここに?」
「!!…あ、う、……こ、子幸に会いに来たのでござる!!」
苦し紛れの言い訳にわたしはくすくす笑って子幸を呼びに行こうとしたが、幸村くんに腕を掴まれてしまう。
「よ、呼びに行かなくていいでござる!」
「……、素直じゃないんですね」
「っ!!う、煩いっ!」
何だか怒っている幸村くんが可愛くて、必死に後ろを付いて行った。幸村くんは赤い頬のまま口をへの字にして先に行ってしまわれる。けどわたしが追いつけないことをわかっておられるのか、時々止まってわたしを待って下さるのが嬉しい。
「今日は逆ですね」
「何がでござるか」
「わたしと幸村くんです。いつもはわたしが迎えに行っているのに」
「…だ、だから別に某は壱子殿を迎えに行ってわけではっ!」
「いいんですよ、照れなくても」
「壱子殿っ!!」
怒ったような幸村くんから逃げながらも、わたしは楽しくて笑っていた。日に日にわたしが成長していることが手に取るようにわかる。
「…壱子殿は変わられたな…」
「…それは悪い意味で…?」
「両方でござる!」
「例えば?」
「前の壱子殿は某をからかったりしなかったでござる」
「それは悪い意味の方ですね」そうか、幸村くんはわたしのことしっかり見ていて下さっている。その事実が少し嬉しくて、笑みが増した。
「それから、よく笑われるようになった」
今みたいに、そう言って笑った幸村くん。胸がどきどきして、わたしはそれ隠すように必死に平穏を保ってみせた。
「幸村くんは変わりませんね」
「…某はまだ子供であると言いたいのでござるか」
言って眉を顰めた不機嫌そうな幸村くん。けどわたしが言いたいのはそういう意味ではなくて、
「わたしの知っている、優しくて温かい幸村くんのままってことです」
言えば途端に顔を真っ赤にして口元を手で押さえた幸村くん。
「…壱子殿…お主はわかってて言っておられるのか…」
「思ったことをそのまま言っているだけです」
照れている、そうわかってしまえばこっちのもの。
「それから、相変わらずかっこよくて素敵で……」
「壱子殿!!いい加減にして下されっ!!」
顔が真っ赤なまま怒った幸村くんに追いかけられながらわたしは確かな胸の高鳴りを感じて学校へ向かった。