素直って何ですか



幸村くんは昔から女の子に滅法弱い。
それなのに何故だかわたしに対する幸村くんの態度は子供のように我が儘である。どこでどうひねくれてしまったのか。
だから今日もわたしは大人しく幸村くんの我が儘を聞いて、いつも通りに幸村くんを迎えに行くのだった。

「おはようございます。」

チャイムがないのでいつも幸村くんを直接呼ぶのだが、幸村くんはすぐには出てきてくれない。わたしを多分困らせたいのだろう。けれど最近じゃ、わたしもこんなことではめげない、というか動じなくなるほどたくましくなった。

「佐助くんはいらっしゃいますか」

戸に向かって、そう聞けば、家の中でどたどたと騒がしい音が聞こえ、少し怒った風な幸村くんが少しだけ戸を開けてわたしをじっと見つめる。毎日これの繰り返しだ。

「…おはようございます幸村くん」

「……何故壱子殿は毎回佐助を呼ぶのでござるか」

「幸村くんは呼んでも出てきてくれないからです」

「…………」

拗ねたようにわたしを睨みつける彼に、少々呆れる。可愛らしい、と言えば良い風に聞こえるが、わたしにとっての彼は子供のようにしか見えない。悪い風に言えば子供っぽい、だ。

「幸村くん、学校に行きましょう。置いて行きますよ」

「わ、わかっているでござるっ!」

どたどたと騒がしく家の中を走り回る彼に、わたしも佐助くんも、苦労を感じ続けている。
佐助くんはもう行ってしまったのか家にはいない。幸村くんと佐助くんは一緒に住んでおられるから、帰るときは一緒に帰るのに行くときは別々だなんて面白い。
と、幸村くんが寝癖のついた髪をわさわさ揺らしながら慌てて出てきた。今日は見事に跳ねてるな、とぼんやり思いながら歩を進めた。

「幸村くん、寝癖が酷いですよ」

「…む、男が寝癖だ、何だで騒ぐのは間違ってるでござるっ!」

「そうですか。じゃあ気にしません」

「何故、皆はそこまで容姿にこだわるのでござるか」

「さぁ、第一印象、というものは大切ですからね」

何故だか幸村くんはまた拗ねてしまわれて、わたしの前をずんずんと歩く。
幸村くんの拗ねてしまう基準がわたしには今でも全くわからないので何の話題を出せばいいことやら。佐助くんがいてくれたらいいのに。

「幸村くん、そんなに急がなくとも遅刻はしませんよ」

「急いでなどおらぬ!壱子殿が遅いだけでござる」

「じゃあ幸村くんもゆっくり行きましょう」

「…………」

渋々、といった感じに、彼はわたしの隣に並び、黙ってしまわれた。
幸村くんは何だかとても気難しい人だ。何を考えておられるのか全くわからないし、わたしといてもちっとも楽しそうじゃないのに、朝はわたしに迎えに来させる。
彼には矛盾、という言葉がぴったりだな、と一人納得してくすりと笑った。

「…壱子殿、今日は何やら雰囲気が違うでござる」

「…雰囲気…?」

一人で笑ったのが気味悪く感じたのだろうか。幸村くんはわたしをじ、と見ては、目が合うと逸らす。というのを繰り返しておられる。幸村くんは少し行動がおかしい。どこか体が悪いのだろうか。

「…髪の毛をあげておられるからか…」

「…髪の毛、ですか?」

そういえば、今日は暑かったので髪の毛をクリップであげていたな、と少し触ってみたが、何かおかしい、だろうか。
雰囲気が違う、と言うことは、前の方がよかった、と言うことだろうか。

「とった方がいいですか?」わたしがそう聞けば、幸村くんはぶんぶんと首を振って、とらない方がましでござる!、と力を込めて言われたが、まし、てどういうことだ。確かに美人ではないが、その言い草はないだろう、と少し傷つきつつも、髪の毛をあげたままにしておいた。

そんなこんなで学校に着けば、佐助くんはやはり、既に学校に行かれていたようで窓枠に座っておられた。わたし達を見るとおはよう、と手を振られたので、わたしもおはようございます、と礼をした。

「壱子ちゃん今日は髪の毛あげてるんだ。似合ってるよ」

「そうですか?ありがとうございます」

佐助くんの爽やかな笑顔に少し照れながらも、褒めて下さるのは悪い気がしないので、礼を言えば、途中からわたしと佐助くんの間に、むす、とした表情の幸村くんが入ってきて、わたしをじ、と見つめた。
幸村くんはいつもこんな風な顔をしてわたしを睨むからわたしはどうしたものやら、と悩むしかない。佐助くんはと言えば、呆れたように苦笑しておいでで、わたしも釣られて苦笑した。

「……髪の毛、元に戻して下され」

「…やはり似合わないでしょうか」

「……佐助の世辞を真に受けるなど、壱子殿は自惚れておいでだ」

幸村くんの言葉が胸にぐさりと刺さったが、本当のことだろう。仕方ない、とわたしはクリップを外すことにした。やはり幸村くんは矛盾している。




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