君が春を連れてきたんだね
こうしてわたしの様々な努力が報われ、最近は元就くんと一緒に学校に行っている。本当はたまたま会ってわたしが元就くんに付いて行っているだけなのだが、それでも元就くんは文句はいわない。
「ねぇ、ねぇ、元就くん。花見はしましたか?」
あの桜の道の桜はもう散ってしまっているが、そういえばわたしも花見はしていないことに気づいた。
「何故我が花見などせねばならぬのだ」
「いや、別に強制してるとかじゃないですよ」
元就くんはいつもこんなだから最初は傷ついたりもしたが免疫のついた今はもう何も感じなくなった。大学でもこんなんなのだろうか。
「でも、せっかくなので花見したかったなぁ」
ここの桜だってすごくきれいだったし、もっと早くに言っていれば、元就くんや、長曾我部くんや猿飛くんや真田くんとも、もっと仲良くなれたかもしれないのに。
「元就くんは花見嫌いですか?」
「別に」
「じゃあ一緒に花見しましょう!」
「莫迦か貴様。桜など散っている」
元就くんがわたしを馬鹿にして鼻で笑った。だがしかしそれが少し悔しかったわたしは元就くんの真似をして鼻で笑った。
「別に、花見って言っても桜以外にもありますよー?」
「……」
「あ、元就くんやっぱり花見したかったんですね、桜の!」
「……」
に、と思いっきし口角をあげて元就くんを見たが、彼は呆れ顔をしていた。
「貴様の屁理屈になど付き合っていられぬ」
「お返しです」
わたしは笑って、元就くんの少し前を歩いた。
「じゃあ…花見が無理なら今度、映画見に行きませんか…?」
元就くんに顔が見られないように前を歩いたが、声が震えてしまったし、わたしの顔が赤いのなんて絶対ばれている。
あぁどうしよう言ってしまった…!なんて後悔したころ、後ろで元就くんが鼻で笑ったのが聞こえた。
「何だ貴様、我を誘っているのか」
元就くんの余裕そうな顔を思い浮かべて顔が余計熱くなった。
「そ、そうですよ!」
だから開き直って元就くんへ振り返ってみると、そこには微かに笑みを浮かべた彼が…。
「フン、行ってやらぬでもない」
「…嘘だ…」
元就くんが笑ったことやら、一緒に映画に行ってくれることやら、驚くことばかりで開いた口がふさがらない。
「元就くん…?」
わたしの横を、彼は相変わらずの無表情で通り、そんな彼の後ろ姿を見送る。
「やっぱり…!」
「…」
「元就くんは奇跡の人だ…!」
「……」
貴様、何を言っている、と言うような元就くんの顔。
だってあなたはわたしの心を奇跡のような確率で奪っていく…!
「これからもよろしくおねがいします!」
彼の手を引いてもう緑の見え初めた道を走った。
元就くんからは春のような温かい匂いがした。