いいこと探し
今日は朝から暖かいので、元就くんの家へ遊びに行こうと思う。アポなしで。みたいな展開から話は始まる。
「こーんにーちわー」
チャイムが鳴らないみたいなので、ドア越しに元就くんを呼んでいるのだが、彼は出てこない。きっとわたしだと気づいていながらの無視だとわたしは思う。
「元就くんー!ドーナツも持ってきたんだけど」
来る途中、美味しいと評判の店のドーナツも買ってきたのだが、彼は出てこない。渋っているのだろうか。
「元就くんー!」
ちぇ、やはり物で釣ろうとしたわたしが悪かった。よしこうなったら元就くんが出てくるまで玄関に居座ってやる(迷惑)。とドーナツの二個目を食べ出したとき、ドアが開いた。
「……貴様…」
「あ、元就くん」
こんにちわー!とドーナツを片手に声をかけると彼はう、と声を詰まらせた。お、ドーナツで釣る作戦がきいているみたいだ。
「何の用だ」
「いやぁ今日は暖かいので元就くんとお花見しようと思って」
に、と笑ってドーナツを見せる。
「花にはやっぱ団子も必要だと思ってドーナツ買ったんだ。一緒に行こう?」本当は元就くんちでごろごろするつもりだったのだが、そういや最近桜が咲いたことを思い出したのだ。
「…」
「…元就くん?」
「…行ってやらなくもない…が、別にドーナツに釣られたわけではないぞ!」
「はいはい(ドーナツに釣られたんだろ)。」
ほんのり頬の赤い元就くん。相変わらずわかりやすいなと思う。
しかし根っからのインドア派な元就くんが外にいるなんて不思議だ。
「あ、そうだ公園の桜を見に行きましょう」
元就くんちに行く途中、綺麗に咲いているのを見たのでちょうどいい。
元就くんは小さく頷いてわたしの前を歩いた。
「ねぇ元就くん。元就くんはドーナツか団子どっちが好きですか」
「…」
わたしのどうでもよい質問に彼はぴくりとした。
「団子」
「そうですか、団子ですかー」
元就くんは団子っぽいもをなぁとぼんやり思いながらも、公園は近づいていた。
子供達(多分)の賑やかな声も聞こえてくる。
「あそこのベンチに座りますか」
元就くんに有無も言わせずわたしはどすんとベンチに座ってドーナツをむっしゃむしゃ食べた。実は自分もインドア派故に外で花見だなんて久々だ。ちらり見た元就くんはドーナツを羨ましげ(多分)に見ている。
「あ、食べる?」
「…、フン、食べてやらぬでもない」
素直じゃない元就くんはわたしのドーナツを一つとると、少しずつ千切って上品に食べておられる。似合わないなぁと内心思いながらもわたしは黙っていた。
「…」
「…」
「桜、綺麗かも…」
「満開ではないがな」
「…」
「…」
なんとなく冷めた空気がわたし達の間をすり抜けていく。だがまぁよくあることだ。気にすることはない。
むしゃむしゃドーナツを食べていると、小さな子供達が寄ってきて、わたし達を羨ましそうに見つめてきた。
「……」
「…」
元就くんは全く気にしないようだったが、わたしはしばらく悩んでまだ手をつけてないドーナツを半分に割った。
「2人で食べて」
それから寄ってきた2人の子供にあげることにした。彼女達は可愛らしくお礼を言うと、遠くで見ていたお母さんらしき人物に自慢しに行った。お母さんらしき人物がわたしにありがとうございます。と礼を言った。
「元就くん」
「なんだ」
「今の光景見て思うことはありませんか」
「特にない」
「そうかいそうかい」
まったく感性のない奴め、とあくまで心の中で悪態をついた。
「元就くん」
「なんだ」
「わたし、久々に公園きました」
「だからなんだ」
元就くんはしれ、と、ドーナツをむしゃむしゃしている(食べるの遅い…)。
「来てよかったです」
「…は?」
「一緒に来てくれたこと、感謝する」
「何故偉そうなのだ」
元就くんはまだむしゃむしゃしながらも、桜を見つめていた。
「我も久々に来た」
家の中にばかりいるから、段々わたしは性格がひんまがっていったのかもしれない。たまに外に出てみると、案外楽しかったのだ。
今日、元就くんちに遊びに行ってよかった。ドーナツ買ってよかった。
そして、ドーナツがなくなり幕は閉じるのだった。
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100427 何が何だか