友達と食べ物は粗末に扱ってはいけません。


最近の元就くんの様子は誰が見てもおかしかった。
学校からの帰り道、久々に一人で帰るわたしはぼんやりとそんなことを考えていた。

一人で帰るのは案外退屈で、本屋へ寄ったり、服を見たり、わたしは暇を持て余している。
そういえば登下校はいつも元就くんと一緒だったからなぁ。そんなことも思いつつ、わたしは暇なので仕方なしに夕飯を買いに惣菜屋へ寄った。

「…ってあれ?」

惣菜屋へ入ろうとドアに手をかけたとき、そこに元就くんがいることに気づいた。
ちょうどサラダを選んでいる様子で、わたしはこっそりそんな彼に歩み寄った。

「元就くん」

「………」

何だお前か、そう言いたげな瞳がわたしを見つめ結局無視をした。何だよ心の中で喋ってんなよ、寂しいな。ってわたし元就くんの心情がわかっちゃってるよ。怖い怖い

「…見事にサラダしか興味ないんだね」

ちらり彼の手元を見れば、そこにはパックに詰めてあるサラダ達。元就くんとは長い付き合いではあるが、こんなにサラダ好きだったとは今初めて知ったよ。

「フン、別に貴様には関係ないだろう」

「……」

何だかやはり元就くんの様子はおかしい。今までは冷たいながらも、こんなに突き放すような言い方しなかったし、表情も心なしか柔らかかった。
その上彼はきっとわたしを避けている。それにわたしは気づきながらも元就くんから離れる気はないのだが(だって嫌がっている様子の元就くんを見てるのは面白い)。

「ねぇねぇ何怒ってんの?」

にやりと口角を上げて近づいた。彼はう、と息を詰まらせた後サラダ達を急いで買った。

「…き、貴様白を切る気か!」

「しら…?」

元就くんの言う"白"とは何か気になって、店を足早に出る彼の後を追った。

「…」

それから不服そうにじ、とわたしを見つめる彼。ここ最近のよそよそしいような、拗ねているような態度はわたしのせいだったのか。何だか疑問が一つ減ってすっきりしたものの、また一つわたしには疑問が浮かぶ。

「うーん…わたし何かした?」

無い脳を使い、思い返してみるも全く心当たりがない。大体長い付き合いなんだ。元就くんがどうしたら怒るかなんてわたしは知っているから、わざわざ怒らせるような真似、したりしないのに。
あ、でもそういえば

「誕生日プレゼント…?」

「…っ!」

恐る恐る言ってみればあからさまに反応を示した元就くん。やはり誕生日プレゼントにあげたやじろべえが気に入らなかったのだろうか。うん、そうだよね。わたしだってやじろべえなんかもらっても嬉しくないし、それでわたしにやじろべえでどうして欲しいの?ってなるよね。

「やっぱかかしがいいかな…?…いやいやあえて起き上がり小法師…?」

「…貴様、我の誕生日は覚えていたのか」

ぶつぶつと独り言を呟くわたしにかかる元就くんの声。え?誕生日?もちろん覚えてますとも。覚えているからやじろべえあげたのに。

「やじろべえ…覚えてない?」

「や、やじろべえ?!」

「うん。確かその日は元就くんに会えなかったから一応靴箱に入れといたんだけど…」

「………」

もしかして靴箱間違えたのだろうか。顔面蒼白にした元就くんを見る限りそうとしか考えてられ…いやもしかして

「わたしだってわからなかったの?」

「………」

うん、ともすん、とも言わない元就くん。燃え尽きたような姿を見たら図星だとすぐわかった。そうか、元就くんはわたしから誕生日プレゼントを貰えなかったと思っていたからそれがショックで様子がおかしかったわけだ!
でも元就くんに誕生日プレゼント渡すのわたしくらいだと思ってたから名前書いてなかったのだが。あちゃーと額に手を置いた。

「捨てたんでしょ?」

「…すまぬ…」

しゅんとうなだれ、わたしを見ようとしない彼。そんなただのやじろべえじゃないか、それくらいいつだって買えるし、わたしも悪いんだ。ちっともわたしは怒っていない。

「いいよいいよ。わたしこそごめん」

「き、貴様は悪くないだろう!」

「?いやいやわたし悪いでしょ」

それにまぁやじろべえなんていうセンスのないようなプレゼントをしたわたしもわたしだし、むしろよかったかもしれない。
あ、いや別にやじろべえがセンス悪いってわけでもないし、やじろべえを悪く言ってるわけではないんだよ!ただ、誕生日プレゼントならもっと他にあるんじゃないかな、わたし。っていう……

「また買ってあげるね」

今度はもっと元就くんが喜ぶ物を。そう言えば彼は顔をあげた。

「い、いやもうよい!」

「なんで…?」

「貴様の気持ちだけで十分ぞ…」

今年は忘れられたと思っていた。そうでないなら、もうよいのだ。貴様を誤解した我が悪い。ぼそっと小さな声で彼はそう言った。
まさかあの元就くんがそこまで自分が悪いことを認めるだなんて信じられなくて目を擦ったが、やはり彼は元就くんだった。

「…ち、ちなみに元就くんは何が欲しい…?」

せっかくあげるなら元就くんの欲しい物をあげようと思う。その方が嬉しいだろうし。少なくともやじろべえやかかしよりは。

「…貴様の接吻」

「…はい…?」

「貴様からの接吻が我への誕生日祝いぞ」

はい?も、元就くんってば頭をどこかで打ったのだろうか。
何だかいつもどおりじゃない元就くんに頭が痛くなる。
けれど、接吻で済むなら経済的にも楽だと思う。仕方ない。わたしのファーストキッスを元就くんにくれてやろう。ファーストキッスなんてわたし気にしない主義だしね。

どきどきしながらそっと元就くんの肩に手をかけ、目を瞑った。せ、接吻なんて一瞬だ。フレンチなものをするんだ。そんな緊張する必要なんてない!そう思うのに段々近づいていく距離に心臓が破裂しそうだ。だいぶ近づき、ちら、と目を開けてみたらびっくり。元就くんは顔を真っ赤にしてわたしを凝視している。

あ、あれ…?元就くんは接吻が欲しいんじゃ…?

「ば、ばばば莫迦者!じょ、冗談に決まっておろうっ!」

元就くんは真っ赤な顔で早口にそう言うと、先程買ったサラダ達を落としてその場をすごい速さで逃げていく。
取り残されたわたしは顔が熱いやら恥ずかしいやらでその場を動けないまま。

れ、冷静に考えてみて自分。
わたしったら冗談を真に受けた上にじ、自分からせ、せせ…接吻だなんて、は、破廉恥すぎるっ!!
へなへなと倒れ込んで頬に手を当てた。くそっ!来年からは様子がおかしかろうと元就くんには誕生日プレゼントなんてやらん!




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100408
セナさまに相互記念として書かせていただいたのにこんなぐだぐだなものになってしまい申し訳ありません。甘さや楽しさの欠片もない…。勿論書き直し可ですので!
セナさま、相互本当にありがとうございます!これからも仲良くしていただけると嬉しです。




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