春は不思議なことが起こる


春は出会いと別れの季節だと言う。
そしてわたしはつい最近、楽しかった高校生生活とお別れをした。別れは確かに辛いものではあったが、わたしは何より次の出会いが楽しみで仕方なかった。

制服というわたしを縛るもののない生活。大人への第一歩を果たしたというのに働かなくてもいいというこの楽さ。
何より何より

「まだ遊んでいられる!」

いやぁもうこの際はっきり言うけれどわたしは勉強なんて糞食らえだと思っている。あ、お食事中であった方、申し訳ありません。
けれどわたしは本当に勉強が嫌いで、大学に行けるようになったことも奇跡に近い。しかも中々の所。これは自分の英語の成績が格段と良く、推薦として入学できたからだろう。まぁそれは幼い頃イギリスにいたということもあるのだが。

とりあえずまぁ、こうして楽しい学園生活を再びエンジョイできるのは春のお陰かもしれない。春万歳、別れ万歳、出会い万歳!

「だがしかし!」

わたしは今困っている。どうやら道に迷ったようなのだ。昔から方向音痴と人に言われていたから、こうなることは予想して早めに家をでたら案の定。溜め息を零して、この暗い路地からの逃げ道を見たときだ。
眩い光の方向に人が歩いていったのだ。こんな所、誰もいないと思っていたのにまさかのまさか。嬉しくて走ってその人を追った。あ、歩くの早い…!

「あ、あのっ!」

奇跡の人(名前を知らないからそう呼ぶことにした)を控えめに呼んだのだが、聞こえなかったのか彼(その奇跡の人は男だった)は振り向かない。
今度こそ、と声をかけたときだった。ぎろりという効果音が似合うぐらいに奇跡の人がわたしを睨みつけた。

「何だ」

ぎろりの次には近寄るな、何の用だ、という副音声まで聞こえ、わたしは思わず後退った。だがしかし、聞いたからには後戻りもできず、行き先である大学の場所を聞けば、彼は溜め息を吐いた。

「ついてこい」

「…はい…?」

他人であるのに、わざわざわたしをそこまでつれていってくれるのだろうか。なんとも親切な彼に、嬉しくなって後ろをちょこちょことついて行った。
彼はやはり歩くペースが速く、ついていくのが大変ではあるが、文句は言えない。

それにしてもわたしは早速良い人に出会えたことに喜んでいた。こんなに早くわたしに出会いが待っていただなんて思ってもみなかったのだ。
先程の彼の冷たい空気は、きっと優しさを隠すためなんだ。とかあまりにも優しい人だから不器用になってしまっているのだ。とか勝手に奇跡の人を捏造しながら春の道を歩いた。今年は桜が咲くのが遅く、まだ満開ではなかったりするが、わたしはこれはこれで好きだったりする。

そして気づけばついていた目的地に、奇跡の人へお礼を言おうとしたのに彼はとっくにわたしの前からいなくなっていた。

おかしいなと思いつつも、顔馴染みを見つけたわたしは彼女達の輪に入っていった。
彼は実は妖精じゃあないのだろうか、などとファンタスティックなことを思いながら。




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