春が好きです


どんな出会いにも意味があるとわたしは思っている。だから、毛利くんとの出会いはきっと奇跡じゃあないと思うんだ。
だって奇跡なんて言葉で片付けてしまうのは少し悲しい!

わたしは入学式の日のように、狭くて暗い路地を歩いていた。初心忘れるべからず、ってやつか!………あ、いやこれは少し違うか。
なんていうか、もう一度ここに来たら毛利くんに会える気がしたのだ。だってわたしたちの出会いは奇跡でも、偶然でもなく、意味のある出会い。必然だもの!…なんて、都合がよすぎるかしら。

「はぁ、」

しばらく歩いて、やっとあの暗さから抜け出したと思ったのに、毛利くんの姿はなかった。まったくこんなことに期待した自分が馬鹿らしくて笑ってしまう。

けれどわたしの行為は無意味ではなかった。
あのときは満開ではなかった桜の花が、綺麗に咲き誇っていたのだ。その綺麗な姿に目が奪われた。
わたしは春が好きだ。春はたくさんの命に出会える。桜の花やつくしの芽。どんなに小さなものにも命を感じることができる。
しばらく桜を見つめていたわたしが、ふと辺りに目をやったときだった。この桜の道の先に彼が立っているのが見えたのだ。

「毛利くんっ!」

彼は奇跡の人だと感じざるをえなかった。奇跡だなんて言い方はあまり好きではなかったりするが、やはり彼は奇跡の人なのだ。

「おはよう!」

ば、と走って彼の元へ行く。あの日との違いは周りの景色と、わたし達の距離だけ。
時間は流れるけれど、わたしはその時間とともに彼にづいていけるのだ。

「一緒に学校行きましょう!」

「…」

毛利くんは相変わらずの調子ではあるが、ちょっとずつ、わたしのいる時間を受け入れてくれている。

わたしは春が好きだ。
温かな出会いをわたしにくれる。




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