毎日に色をつけられたらいいな
広い大学の食堂。たくさんの人たちの楽しそうな声が聞こえるそこで、わたしは一人佇んでいた。
先程まで隣にいたよしこも、さおりも、ともちゃんも、みんないない。そうだ。わたしは彼女たちとはぐれてしまった。かばんは彼女たちに預けていた(トイレに行っていたから)ので携帯も財布も何も持っていない。
美味しそうな食事たちを前にわたしは何もできないのだ。
「はぁ」
しょぼん、と肩を落として外へ行こうとしたときだった。色とりどりな服の間にあのときの奇跡の人を見つけたのだ。
「あ、あのっ!」
やはり彼は奇跡の人だ。なんたってわたしが困っているとき、まさに奇跡のように現れてくれる。
彼は色とりどりな服の間をすり抜けながらわたしの声に気づくと元々眉間にたたまれていた皺をさらに増やした。
「何だ」
彼はあのときと変わらずまたこの女か、とか、くそついてないとか言う副音声を連れていた。しかし、連れているのは副音声だけではない。この前に比べると華やかに見えるなぁと思っていたのだが、周りには華やかな色をまとった男の方々がいたのだ。
「あれ?毛利の旦那いつの間に女の子と仲良くなったの?」
「お、女子っ?!は、破廉恥でありまするっ!」
オレンジ色の方は好奇の目をわたしに向け、赤色の方はわたしを見た途端に逃げ出した。
「元就もやるじゃねぇか!」
そして紫色の方は奇跡の人の肩に手を回した。
あまりにも突然な出来事にまばたきを繰り返した。…だ、だっていくら春だからってオレンジに赤に緑に紫だなんて鮮やかすぎる!
先程からやけに色とりどりだなと感じていたのはこの人たちがいたからか。
「で、何のようだ貴様」
「あ!」
奇跡の人は苛立った様子でわたしを急かした。今更になって彼に声をかけなければよかったと感じる。
「ご、ごめん。大した様子ではなかったのですが、見かけたから…」
大体この前のお礼だって言っていないのだ。本当に妖精かな、と思っていたわたしからしたら、もう一度会えたのもまた奇跡だ。
けれど彼はため息を吐くとわたしに背を向けて歩き出す。まさかの状況に周りの方々も驚いたようで、紫色の方は彼を追って行った。
「…」
「ま、気にしなくてもいいよ。毛利の旦那、いつもあんな感じだから」
と、さらりと話しかけてくれたのはオレンジ色の方。彼は人懐っこい笑みを浮かべながらも目は冷たくて、背筋がぞくりとした。そしてもう一人残った赤色の方は、わたしに近寄ろうとはせず、オレンジ色の彼のそばにいた。
「それじゃ…あ、また会ったら声かけてよ。覚えておくから」
ひらひらと手を振りオレンジ色の彼は赤色の彼と食堂を出ていく。
なんだったんだ。まさに春の嵐がわたしに襲いかかってきたかのような出来事。
とりあえず近くの椅子に座って一息ついたが、あれ、よく考えたら結局お礼も言ってないし、ちょっと助けてもらおうと思ったのにちょっとどころか全然相手にしてもらえなかった。
ダメダメな自分に溜め息を吐いて友達を待つことにした。なんか疲れたのだ。
にしても春というのは本当に出会いの季節なんだと思い知らされたようだ。なんたってわたしは今までに関わったことのないような方々と出会ってしまった(しかもよく見たらみんな男前!)。
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青色の彼は書けませんでした………あ、黄色の彼を書くの忘…れ、た…!