笑顔になれる星
元就くんが入院した。わたしが入院している病院に来る途中にバイクに跳ねられたらしい。いつもいつもわたしには注意が足りないとか言っているあの元就くんが、事故に合ったのだ。
「……元就くん…」
元就くんが事故に合った日はわたしの退院日で、退院してからわたしは元就くんのお見舞いに通っている。
元就くんは今は眠っているけど、起きていると飲み物を買ってこい、だとか果物を剥け、だとか口うるさいのだ。
「………はぁ」
待っているだけは退屈だ。起きていると起きているで、鬱陶しいと思うことがある。でも寝ていると寝ているで、退屈だ。
なのにわたしは懲りずに元就くんの元へ見舞っている。それはわたしのせいで事故にあってしまった罪悪感からでもあり、今までこうして見舞いに懲りずに来てくれていた感謝からでもある。それと少しの心配から。
でも……
「…よかった…」
事故に合ったと聞いたとき、心臓が止まるかと思った。目の前が見えなくなって、不安で、怖くて鳥肌が立ち、震えが止まらなかった。
無事だったと聞いたとき、体中の力が抜けた。涙が溢れて、生きていることに安堵した。きっと、元就くんは昔からこんな気持ちを味わってきたんだ。不安でたまらなかったんだ。なのにわたしは何もわかっていなかった。元就くんはわたしのこと大切にしてくれていた。
「…」
「…なまえ…」
今起きた元就くんの指がわたしの目元を拭った。…涙が止まらない。
「何故泣くのだ」
元就くんの相変わらずの無表情。けれど優しかった。優しい無表情をしているのだ。…………元就くんは、昔から優しかった。
「…生きてて、よかった」
「……」
わたしの目元を拭う元就くんの手を握った。改めて彼が生きていることに涙が出る。
「当たり前ぞ。我を甘くみるな」
彼はわたしの頬をつまみにやりと笑うと、起き上がった。
「大体いつまで泣いているのだ。今更であろう。我は無事であったのだぞ。喜ぶのが普通……」
「…!よ、喜んでるから泣いているんです!」
「わかっている!…我は貴様に笑って欲しいと……っ!」
まずいことを言ってしまったと慌てる元就くんの姿にくすくす笑った。うん、わたし達にシリアスなんて似合わない。
けれど、こういうことがなければ気づくことのできなかった大切なこと。…わたしは大切なことをわかっていなかった。
「…」
不運であることを理由に事故を軽くみていたが、今考えてみればわたしは不運じゃない!
「元就くんも、わたしも生きているもの」
事故に合ったって生きている。わたし達は生きている。
それってとても
「運がよかったのかもしれない」
「……」
元就くんは呆れたような顔をしていた。
もう、命を軽く見たりなんかしない。生きていることがありがたいことであると、わたしはようやく気づけた。
「…でもまさか元就くんが事故に合うなんてね…」
にやにやしながら彼を見ると、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「不注意だね。どうせ元親のことでも考えていたんでしょう?」
「なっ!何故長曾我部なのだ!」
「元就くんは何かと元親を敵視するから」
くすくすと笑って彼をからかった。
と、病室の戸が開き噂をすれば元親が現れた。彼は既にいたわたしを見てにやりと笑った。
「何だかんだ言って仲いいじゃねぇか」
「元親もね」
いつの間にか、こうして集まることが当たり前になっていることが心地よいようで照れくさかった。
どんなに喧嘩しても、昔からの仲はずっと変わらない。そんな関係に笑顔がこぼれたのだった。
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