世界で一番笑顔が輝いている
「あ、なーちゃん!」
いつも通り参考書を片手に家に帰る途中、何やら急に右足を引っ張られ、振り返ってみれば、小さな女子がいた。
……いや。小さなって程小さい訳ではない。7歳くらいの女子だ。
…ってそんなことはどうでもいい。記憶を必死に巻き戻して考えてみれば、この女子は我のことを"なーちゃん"と呼んだのだ。
「…何か用か」
「…うん。お母さんになーちゃんのおむかえしてきなさい。って言われたから来たのー!」
にこ、と満面の笑みを浮かべた子供に冷や汗が垂れた。
「…我は貴様の言う奴ではあらぬ」
「…?…なーちゃん、お手てつなごー?」
我の手をきゅ、と握った小さな手にびくり、とした。
「ふ、ふざけるな!我は貴様など知らぬっ!」
大人げない、と心の中で思ったものの、その小さな手を振り払った途端、子供の瞳は大きく見開かれ、みるみるうちに溜まっていく涙。
「…な、な、ちゃん…うぅ」
「…!!」
今にも泣き出しそうな目元に堪らなく、焦り、無意識に先程振り払った手を繋いでいた。
「な、泣くでないっ!」
「…、う、うんっ!」
必死になって頭をぎこちなく撫で、またふわり笑った子供に心底安心した。だが安心したのもつかの間、機嫌の直った様子の子供は、なーちゃん、抱っこ。と我に両手を伸ばし、にこにこ笑うのだ。
何故我がそのようなことを!眉間に皺を寄せ、返答を考えていると、そやつは我の首に両手を回し、ぴょんぴょん跳ねてまたせがむのだ。
「わ、わかった!抱けばよいのであろうっ!」
「やったぁ!」
面倒だ。面倒で堪らない。何故我がこのような子供を抱かねばならぬのだ。それも全く知らない子供だ。溜め息を吐いて、この子供の家を探し始めた。
腕に抱いた子供からはふわりと甘いチョコレートの匂いがする。その匂いは不快ではないが酔うし、腕は疲れるし、勉強がしたかったのに!いらいらは募るばかりだが、
あれがゆきちゃんちで、あれがともちゃんち、とにこにこ話すこやつの無邪気な笑顔にどきりとし、可愛いと思ってしまう。
「なーちゃんは好きな人いるー?」
と、先程まできゃっきゃと騒いでいた女子は急に静かになると、我の肩にもたれかかってきた。
「…フン、そんなものおるわけない!」「ほんと?…えへへ」
と、嬉しそうに頬を赤くした女子。それから内緒話をするように、我の耳に手を当てた。
「わたしをなーちゃんのおよめさんにしてね」
耳に当たる微かな吐息と幼いソプラノにどきり、とした。たかが子供に我は何故動揺しているのだ!と、落ち着こうとすればするほど頬が熱くなる。
別に可愛いなどと思ってはいない!断じて思っていないのだ!
「なーちゃん…」
「……、な、何だ!」
「わたしねむいよ…おうちあそこ」
早く、帰ろう。そう言いたいのか、目を擦りながら指差した家。やっと解放される、と安堵の溜め息をついた。が、ついに眠ってしまった幼い寝顔を見て胸が少し苦しくなった。
強く抱いてみれば苦しそうにする姿。自分よりずっと小さな手。それを見れば見るほど沸き上がる不思議な感情。
こやつの家の手前、改めて見た子供は、やはり可愛かっ………
!い、いや、可愛いなどと思ってはいない!フン、精々したわ!!
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小さい子との話だなんて書いたことないもので、ぐだぐだとしたわけのわからないものになってしまいました。申し訳ありません、あたしの勉強不足です!…でも楽しかった…!新鮮。
蜜木ゆのさま、リクエスト本当にありがとうございました!