少し向き合ってみる
この前元就と喧嘩をした。喧嘩なんて日常茶飯事な上に、日頃口論を繰り返しているわたし達なのだが、今回は本当に喧嘩だ。
喧嘩をしていると言うのに本当にわたしは運が悪く、しょっちゅう彼に会うのだ。まずは生徒会の集まり。生徒会の集まりは大体週に3、4回あるのだが、そのときは嫌でも顔を合わせなければならないし、彼の視線がびしばしとこちらにきているのをわたしは知っている。勿論視線を合わせることなんてしてやらないが。それから帰りの電車。道。帰るとき、帰宅部、それから生徒会という共通点のあるわたし達は嫌と言うほど会う。行きは一緒じゃないだけましなのだが、こうも会っているとこれは運命かも、と嫌な予感もする。大体気まずいったらありゃしないのだ。
そして今日、今現在。わたしは遂に毛利くんと向き合うことになった。そうだ、毛利くんのことは好きではないが、喧嘩したままというのは何となく気分が悪い。
「毛利くん…」
「貴様、さっさと謝れ」
「……はぁ……?」
「謝れば許してやらぬでもない」
何なんだその顔は!まるでわたしが全て悪いかのような言い草にその態度!むかつく、とかそんな次元の問題じゃないぞこれは。わたしは何故こんな奴と仲直りをしようとしているのだ。
「嫌だ。誰が謝りますか。毛利くんが謝れ」
「貴様が謝れ」
「毛利くんが謝れ」
「貴様が謝れ」
「貴様って誰ですか。あたしはなまえっていうちゃんとした名前があるのです。毛利くん謝れ」
「煩い、貴様の名を一々口にするのが面倒だ。さっさと謝れ」
子供のように二人で言い合っては睨み合い、周りにいる生徒会の皆々は相当呆れておられる。はい、言い忘れていましたが、ちなみにここは生徒会室で、生徒会の集まりの最中です。
「大体君達は何について喧嘩しているんだい」
と、仰られたのは竹中半兵衛くんで、ちなみに彼は副生徒会長。何でも、秀吉先生が生徒会担当の先生だから副生徒会長に立候補したとか何とか…。その秀吉先生は滅多に顔を出されないのだけれど。
「…毛利くんが悪いのです」
「愚か者め、貴様が悪いに決まっておろう」
「はぁ?毛利くんが悪いし」
「我が悪いわけなかろう、貴様が悪い謝れ」
「………もういい。君達は勝手にやっていてくれ。僕達は僕達でやるから」
毛利くんと理由の曖昧な喧嘩のせいで、竹中くんには呆れられ、見捨てられるし、生徒会は勝手に進んでいくしふざけんな毛利くん謝れ!
と、まぁやってるうちに今日はもう終わりのようで、ばらばらと帰る中、わたし達は同じ方向へ一緒に帰っていた。
「毛利くんのせいで今日は生徒会の皆に迷惑をかけてしまったじゃないですか」
「そんなもの知らぬ、貴様が謝ればよいことであろう」
「何故わたしが。毛利くんが謝ればわたしも謝りますよ」
「貴様が先だ」
「いや、毛利くんが先です」
まったく毛利くんには呆れる。今更ですが、この喧嘩は理不尽な毛利くんの怒りのせいで引き起こされたのだから。と、言うのも、ついこの間。お見舞いの件やら風邪の件やらで色々お世話になった元親の野郎に昼ご飯を奢ってもらっていると、毛利くんがわたし達の元にやってこられたのです。まぁそれくらいは普通にいいのだが、わたしが元親とわぁわぁと喋っていると急に毛利くんが元親の頬を一発殴って、理不尽な怒りをわたしに向けてきたのだ。
貴様は何故長宗我部と一緒にいるのだ!から、大体貴様は…と彼の説教が始まり、最後は阿呆だの莫迦だのと貶され、いくらなんでも苛々したわたしが言い返せば、毛利くんとの喧嘩が本格化したのだ。
わたし達の間に入って、止めようとする元親をお互い何度殴ったことやら…。最後ぼろぼろになった元親に怒られて一旦休戦となったのだが、わたし達の喧嘩は今の今まで続いている。
「思い出した!喧嘩ふっかけてきたのはやはり毛利くんです!」
「違う!貴様が長宗我部と……」
「……元親と、何ですか」
「………だ、大体貴様は長宗我部より我との方が長い付き合いなのに、何故長宗我部は名前で呼び、我は名字なのだっ!!」
「……は、い…?」
色白の顔を真っ赤にして怒りを露わにした毛利くんだが、え、それはもしや世間で言うやきもち、つまり嫉妬というやつなのですか。いやそうですね普通に。ちょ、ちょっと待って毛利くんは子供か!
「…元就、と呼んでほしいのですか?」
「ち、違っそういうわけではあらぬっ!!」
相変わらず顔の赤い毛利く……いや元就くんの素直じゃない様子が面白くて口角がついつい上がってしまう。だって元就くんはあまりにも子供のようだ。
「喧嘩はもう止めましょう」
「…何……?」
「わたしが毛利くんのことを元就くん、そう呼べばいいだけのことでしょう?」
「…っ!!」
あまりにも阿保らしいっちゃ阿保らしい。けれど、そんなところがまた元就くんらしいって言うか、その子供のような姿に頬が緩む。
「おもちゃを取られた子供の気持ち、ですか?」
「き、貴様っ!我を愚弄しているのかっ!」
「まさか!微笑ましい、と思っているのです」
にやにやと笑いながら、元就くんの隣に並んだ。何年も並ぶことのなかった彼の隣は、意外と心地よい、というか……。久々に並んだ隣の元就くんの肩が前より遠くなっているのこと気づいて、近くに歩み寄ってみないとわからないことってあるな、と少し元就くんに対する思いが変わった気がした。