失望
昼休み、昼食とチョコレートを片手にあたしは元親くんを探していた。元親くんは昼食の時間は必ず元就くんとおられる。そしてあたしは昼休みも元就くんにチョコレートを渡そうと企んでいるのだ。
ふらふらと歩き回ってみたが全然元親くんが見当たらない。おかしいなぁとやってきた屋上に彼はいた。
「元就くんはここにいたのか!」
「…」
元親くんを探していたけれど、運良く一人ぼっちの元就くんを見つけた。彼は黒塗りの弁当箱を片手にあたしを見て溜め息を吐いた。
「また貴様は持ってきたのか」
「ご名答!」
彼の真ん前に座って昼食のパンを頬張った。ちなみにパンはレーズンパンだ。
「元就くんそのお弁当は自分で作ってるの?」
「あぁ」
「うぇ、まじでか?!」
覗き込んだ弁当箱には玉子焼きにほうれん草のおひたし、きんぴらごぼう、焼き魚、などの和食が入っており、どれも美味しそうにきらきら光ってみえる。
すごい、これを朝に、と尊敬の眼差しを向ければ、元就くんはフン、と得意気に鼻を鳴らした。
「料理好きなの?」
「別に」
「……さ、さいですか」
いいお婿さんになるだろうな、元就くん。なんて考えながらチョコレートをじ、と見つめた。そんな元就くんが、あたしのチョコレートを美味しいと言ってくれるのだろうか。
「はい。これ食べて」
「…またか」
とか言いつつも元就くんは箸でチョコレートを摘んだ。
「今回はチョコブラウニーです」
「………」
もぐもぐと元就くんはたべている。今回のチョコブラウニーは結構うまくできたつもりだ。というかブラウニーって案外簡単にできるよね。あたしは焼き菓子とか好きですよ。
でも作ってる途中に元就くんへの苛々が募って色々手抜きなのだがまぁそんなもん気にする元就くんじゃないだろう。うん、途中でミルクチョコがなくなって半分くらいビターチョコだけどそんなこと元就くんがわかるわけ、うん、ないよ。
「手抜きだな」
「……」
……わかったみたいです。うんきっとこんな落ちだろうと皆予想していたと思うのですが、ばれてしまった。けれど手抜きながらにおいしいと思うのですが、どうでしょうか。
「いやぁ、手抜きなわけないじゃないですか!元就くんにあげるのですから!」
「…」
呆れた様子で溜め息を吐いた元就くん。けれど、彼の箸は止まらない。
「…まずくはない」
「……ほんとっ?!」
「だがうまくもない」
「………」
「残したら勿体ないであろう」
「…ちぇっ…………ってあれ…?」
そういや元就くんって今までのチョコレート普通に残していたよね…?
うん、残してた。なのに急に残したら勿体ないだなんて…。
「にやにや」
「……な、なんだ気持ち悪い!」
「実はこれ、おいしかったんじゃないの?」
「なっ!誰もそのようなことは言っておらぬ!」
「ふーん」
「貴様…!!」
顔を赤くしてチョコレートから箸を離した元就くんのあからさまな行動にくすくす笑ったら、元就くんが先程まで食べていたお弁当の蓋が頭に飛んできた。
「!あだっ!」
「天誅だ」
「…いや、意味わからねぇよそれ」
「あ、元親くん…」
頭を掻きながら苦笑する元親くん。コンビニのビニール袋を手に提げ、あたし達を交互に見た後どか、と座った。
「…お前ら仲よかったのかぁ?」
「………」
「………」
あれ、そういやあたし達って昨日初めて喋ったんだよね。
「あぁ、我らは他人だ」
「………」
元就くんにとってのあたしはそうとしか映らないのかな。