再戦
あたしのチョコレート戦争(あたしのチョコレートを絶対に美味しいと言わせてやる、覚悟しろよ元就くん。うん、まさにこれは戦争よ!…の略)はまだ続いていた。そう。今は二時間目なのだ。爪をがりがり噛みながら、鞄いっぱいのチョコレートを見てにやりとした。よし次は生チョコでいこう。
「………」
休み時間ちょこん、と元親くんの教室を覗き見していると、丁度元親くんと目が合った。
「何か用か」
「うん。はい、これ食べて」
「……え、これもくれんのかァ…?」
「うん、あげる。はよ食べて」
「……あ、あぁ」
少し驚きつつも涙ぐみチョコレートを食べた元親くん。どきどきしながら元親くんを見つめていると、彼はそっと口を開いた。
「うまいぜ、これも…」
「まぁほんと?!よし、じゃあね!」
「…あ、あぁ…?」
また元親くんのクラスの皆さんに冷やかされたけれど、別に元親くんが好きとかじゃなくて、結局あたしは元親くんを利用してるんだよね。あぁあたしはなんて罪な女なの!しかしチョコレート戦争には多少の犠牲も仕方がないことなのよ。
「元就くん!」
休み時間に飛んでやってきたあたしに、彼は眉をひそめた。
「何だ貴様、うるさい黙れ」
「……き、厳しいお言葉…!」
しかしあたしはここで引き下がるわけにはいかない。元就くんに生チョコを差し出しどうだうまいだろ、的な目でにやにやしたら彼は一口食べて、箸を置いた。
「くどい」
「……な、何…?!」
「生は好かぬ」
「ま、まさかの選択ミス!!」
元就くんがまさか生チョコ嫌いだったなんてあたしったら馬鹿だ!くっそー、悔しいがこの勝負もあたしの負け。元就くんの食べた生チョコをもらい、食べながらうまいのになぁと呟くと、元就くんは溜め息を吐かれた。
「貴様は何故、我に構う」
「…え…?」
驚いて元就くんを見つめた。そして周りを見回した。確かに元就くんと喋ろうとしている人なんて誰一人いない。そのうえ元就くんと喋っているあたしには好奇の目まで向けられていた。居心地の悪さに俯くと元就くんはだから言ったであろう、と呟いた。でも、
「あたしはそんなの気にしないよ」
「…」
「元親くんの友達に悪い人はいないから」確かにわからない人だけど、元就くんはこうしてあたしの心配までしてくれる優しい人だって気づいたし、何より。
「今は戦争中だからそんなこと気にする必要はないのだ」
「…は…?」
「あ、いや何でもないです」
元就くんはしばらくあたしを見つめてそれから物好き、とぼそり呟いた。
「物好きでもいいですよ」
に、と口角をあげて笑った。
とりあえずあたしのチョコレートを元就くんに美味しいって、絶対に言わせることがあたしの使命であるのだ。
そしてチャイムが鳴りそうだったのでそそくさと教室に帰ってくると、幸村くんがもじもじしながら立っていた。そうだまだ幸村くんにあげてなかった。と鞄からガサガサ探していると、彼はあたしの肩を叩いた。
「そ、某はそれでいいでござる!」
「…でもこれ食べたし…」
「しかしそれも手作りなのでござろう…?」
幸村くんは先ほどの生チョコを指差して真剣な目をして言われた。
「わかった。じゃあはい。それとこれとこれ」
生チョコに元々あげるはずだったチョコレートを渡すと幸村くんは花が咲いたような笑顔で笑って、ありがとう、とおっしゃられた。
幸村くんはきっと天使なのだ。元就くんと会ったあとに彼に会うと心が癒やされる。きっと彼ならあたしの作ったもの全部美味しいって言ってくれるのだろうなあ。