始動
あのあとあたしは意地を張ってチョコレートを更に追加して色々な種類のものを作っていた。友達数人にあげる分が4で、元就くんにあげる分が4で、そのうちの1が元親くんに味見してもらう分。あとがあたし。みたいな比率だ。
「元親くん!」
「……あん?」
隣の教室に乗り込み、あたしは一番に元親くんにチョコレートを渡した。まずはべたにトリュフチョコからいこうじゃないか。
「さぁ、元親くん!食べるがいい!!」
「…は…?」
「なんだよもう。勿体ないから食べられないとかそういう系?よし、このあたしが食べさせてあげ……」
「馬鹿かてめぇ、今食べろってのか」
「あたぼうよ!」
「………」
何だか一瞬嬉しいような顔をした元親くんだったが、すぐに複雑そうな顔になり、あたしのチョコレートを睨んだ。
「…何か入って…」
「ない!」
「………」
きれいに包装紙を取ると、元親くんはまだ疑わしげにトリュフチョコを一つ口へ運んだ。周りがわぁわぁ騒いでるけれど、関係ない。てかうっせぇ黙れってんだ!!
「……うめぇ」
「え?!ほんとに?!」
「あ、あぁ」
本当に何か入っていると思っていたのか拍子抜けした感じの元親くんに、ありがとうと手を振って教室から出た。よし!美味しいのなら問題ない!さぁ、待っていろよ元就くん!
「……で、我の所に来たと?」
「うん、昨日の悔しかった」
「フン」
「………どう?」
綺麗に箸でチョコレートを口に運んだ元就くん。さて彼の口から美味しい。という言葉が出るだろうか。どきどきしながらじ、と元就くんの口元を見つめた。
「…普通…」
「……ふ、普通だと…?!」
ぴき、と何かが割れるような音がして、あたしは地面に崩れた。元親くん、このやろううまいって言ったじゃないか!!
「…ちょっと失礼…」
元就くんのチョコレートを一つ頂戴して食べてみたが、やはり普通に美味しい。……ん?…普通に美味しい…?普通、に美味しいって…普通、なんだよね結局…!
「くっそーー!」
元就くんは何て正直者なのだ!いや、正直が悪いわけじゃあないのだよ?いやただそこは美味しいとか言ってほしかったわけで………いやいや!あたしは元就くんにぎゃふんと言わせてやるつもりなのだ!そんな甘ったるいことなんて言ってられるかこんちくしょー!
「あ!でもチョコレートはまだまだ作ってるんですよ!絶対美味しいって言わせる…!」
「ほざけ、我を甘く見るな」
「……!」
な、何だその余裕綽々な姿は!いらっとするなぁまったくもー!
「で、貴様用はそれだけか」
「………」
ぎろりと元就くんを睨みつけてから教室に戻った。うるさい政宗くんがチョコレートくれチョコレートくれ言ってたから仕方なしにトリュフチョコのあまりを投げつけてやった。
「Ah…!手作りか…」
「あ、別に深い意味はないよ。むしろこれからも友達として仲良くしてね」