世界はこんなにも美しい


最近、元就くんが引っ越す、という噂が学校で広まっている。そういえば最近の元就くんは忙しそうだったし学校を休むことも多くて、あたしはどうしようもなく寂しい思いを感じていた。しかしそれが本当のことなのか知りたくても元就くんとすれ違いになってしまうので、ちっとも会えないでいた。

「はぁ」

なんだかあたしの世界はすっかり色をなくしてしまったようだった。こんなことを言うと詩人のようで、気取っているように思われてしまうかもしれない。あ、いや決して詩人の方が気取っているわけではない。ただあたしが気取っているように思えたのだ。でも確かにあたしの見る世界の全てに色を感じなかった。
花の色も、赤青黄色としっかりわかるのに何か物足りなかったのだ。

「親ちゃん、あたしどうしたのかな」

「いや、お前それって…」

「……うん、やっぱり病気だよね…」

「………」

親ちゃんの苦笑する姿に溜め息が出た。薄々気づいていたんだ。これは病気しかない。だって色はわかるのに、あたしの世界はまるで色が無いかのように面白みの欠片もない。

「元就は引っ越すのか?」

「…どうだろうね」

「…」

「…最近元就くんに、会ってないから」

「…メールは?」

「あたし、メール嫌いなの」

「はぁ?」

親ちゃんは随分驚いたようだったが、やっぱり大切な友達とは会って話しをしたいし、相手の顔が見えないと寂しい。だから電話も、メールも、手紙だって嫌いだ。でも元就くんが引っ越すとなるとあたしは元就くんには会えなくなるから、嫌でも電話するんだろうな。

「……はぁ」

「……あぁ!もう、お前早く元就んとこ行ってこい!」

「何で?」

「何でって…んなもん自分で考えろ!」

「ちょ、親ちゃん、痛いって!」

親ちゃんに背中を押され、教室から追い出される。けれど忙しそうな元就くんに会いに行くわけにもいかず、仕方なしに家へ帰ることにした。

「……はぁ」

黙っていると溜め息ばかりでる。親ちゃんはあたしのことを心配してくれているし、とても優しいけど、あたしには親ちゃんの考えていることがちっともわからない。
とぼとぼ、と半ば足を引きずるように歩いているとあたしの目の前がふと暗くなった。

「……」

きっと目の前に誰かいるのだろう。と右側に寄って、わざわざ避けて通ったというのに、急に誰かに腕を掴まれてびくり、とした。

「…莫迦者」

「…元、就…くん…?」

顔を上げて振り返ってみると、そこにはむす、と口を一文字に曲げた元就くんが立っていた。

「どう、したの…?」

忙しいはずじゃ…。そう言いたかったのにその先の言葉は元就くんの言葉に遮られた。

「我は引っ越したりせぬ」

「…え…」

「何だその腑抜けた顔は」

元就くんにほっぺを引っ張られ、その手の温かさに、胸がじいん、と熱くなった。元就くんの周りから、まるで花が咲くかのように色付いていき、やっとあたしの世界は色を付けた。

「元就くん…」

「…な、何だ!…泣くほど痛かったのか!」

「うん…うん、よかったぁ…っ」

慌てる元就くんにぎゅうと抱きついて笑いながら泣いた。嬉しい。よかった。元就くんは、ここにいる。電話も、メールも、手紙だっていらないんだ!

「そういや、もしかして元就くんはあたしのこと心配して来てくれたの?」

「う、自惚れるな!偶然ぞ!」

「そうなの?……なんだぁ」

「(長曾我部の莫迦からメールがあったなんて誰が言うか!)」

「…ねぇ元就くん」

元就くん、あたしの見ている世界は、こんなにも美しいんだね!
笑顔で見つめた元就くんの顔は夕日と同じくらい赤かった。







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うちのサイトの長曾我部は何があってもサブキャラだと言い切る!




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