仕事をしない
今日からこの保育園に新しい先生が勤めることになった。あたしが担当している3〜4歳の子供達のクラスに入られる。
朝、職員室で挨拶をした人は、男の人で、偏見とかじゃないけどちょっと意外で、あたしは彼とうまくやっていけるかが心配だった。ちなみに名前は毛利元就と言うらしい。
そして保育園に子供達が集まった頃、クラスで毛利先生を紹介したのだが、彼は何か我が名は毛利元就。日輪の申し子ぞ、だとか意味不明な自己紹介を園児達に言ったものだから園児達もちんぷんかんぷんな様子。あたしはきっと彼とはうまくやっていけない。
「じゃ、じゃあみんな、毛利先生と仲良くしてねー!」
「はーーい!」
園児達のにこにこ顔に和む。ちらり隣を見たが、毛利先生は相変わらずの無表情、てか心無しか不機嫌そうなのですが、あたしはどうしたらいい?
「毛利先生、園児達の名前は覚えましたか?」
「我を侮るな」
別に侮ってたわけじゃないし!ちょっとむきになりつつも得意の笑顔を貼り付け、園児達と戯れることにした。もうあんな人知らない。
「もーり先生!なによんでるの?」
と、もーり先生、と呼ぶ声がする方を見ればもーり先生…じゃなくて毛利先生は園児用の椅子に座り本を読んでおられた。
……保育士なんだろうがてめぇ!園児達の世話しろよ!
「貴様に言ったところでわかるはずもない」
「も、毛利先生!園児にその言い方は…!」
毛利先生の無茶苦茶な物言いに、思わず止めに言ったら、彼の鋭い眼光に睨まれた。
「何だ貴様、我に命令するか」
「め、命令じゃなくて!」
これは当たり前のこと、っていうか、毛利先生のその喋り方、絶対ダメだ。園児によくない!
と、向こうで園児達が喧嘩をしている様子だったので、急いで止めに行ったのだが、
「きさま、われにめいれいするか!」
「…………?」
あれ、だから毛利先生の喋り方は園児達の教育によくない、って言ったんだよ。
もう!ほらもう園児も真似してるしふざけるなよ毛利先生!!
「…ほう、貴様面白いことを言うな」
と、急に背後に現れたと思ったら彼は自分の真似をした子供の頭を撫でた。
「…毛利先生…?」
毛利先生の表情は随分優しくて、やっぱりあなたも子供が好きなんだね。と安心して見ていたのに、彼はまた飽きたら本を読み始める。気まぐれかよ!
と、予想以上の展開に戸惑いつつもお昼の時間のようで、あたしは机を並べると園児達を座らせた。昼食を持って来て、みんなで食べ始めたときも、毛利先生は本を読んでいる。
園児達の零したご飯などを拭いたり、まだ一人で食べきれない園児に食べさせてあげたり甲斐甲斐しく働いているのに毛利先生は優雅に紅茶タイムですか。そうですか。
「毛利先生!あなたも手伝って下さい!」
「…何……?」
ちょっと怒りながらそう言えば、途端彼の眼光が飛んでくる。怖い、が、あたしは一応彼の先輩なのだ。びしっ!と言ってやらなければならない!
「何故我がそんなことやらなければならないのだ」
「じゃあ何で保育士になったんですか!」
もう嫌だ。しれっと言い放った毛利先生に、あたしはこの人は子供達よりも世話がかかるんだ、と確信してがっくり落胆するのだった。