0.君と一緒に大晦日


年が開ける、という一大イベントに、あたしは朝から浮かれていた。何しろあたしは今日から6日間元就くんとこでお泊まりなのだ。6日間っていう中途半端さはまぁ置いといて、何とまぁ嬉しいことに、元就くんの母上が、"一人暮らしは大変ね…なんだったらお正月はうちで過ごすといいわ。と言ってもあたしはお父さんとお正月の間出掛けるんだけど"なんて言って下さったからあたしは只今元就くん宅にいる。それも元就くんの部屋に、だ。もうお正月万歳!

「元就くん、やっぱり大晦日は紅白です。紅白見ましょう!」

「貴様のような奴はニュースを見ろ」

「に、ニュース?!元就くんってばそれで高校生…?」

「黙れ」

元就くんは親がいなくなるお正月は一人で有意義に過ごすつもりだったらしく、あたしがいることをとてつもなく不満に思っておられる。
でも元就くんのお母様は度々元就くん宅にお邪魔するあたしのことを元就くんの彼女だと思っておられるようで、だからあたしを家に泊めて下さったのだ。

「あ、ちょっと待ってて下さい」

名残惜しいこたつを離れ、台所に向かった。そうなのです。一応今日は大晦日なので蕎麦を作るのですが、こうして元就くん宅の台所に立っているっていうのは、何だか新婚さんみたいだとかそうじゃないとか…
ご機嫌でそばを茹でながら、ちらり居間を見れば元就くんは相変わらず勉強をしておられる。彼は元々頭がいいし、勉強する必要もないのに、予習をかかせない。復習はまぁ、しないみたいですが、あたしは元就くんのそういうところも素敵だと思っていますよ。

「元就くん元就くん!もうちょっとです、待ってて下さいよ!」

「…誰も貴様のそばに期待はしておらぬ」

「な、なんでそば作ってるってわかったの?!」

「大晦日と言えば年越しそば、だとか言っていたのは貴様だろう」

くっそー!びっくりさせるつもりだったのに自分の馬鹿!はぁ、と溜め息を零した。まぁばれてしまったのは仕方ない!気を取り直してやっとこさできたそばを元就くんの元へ持って行った。

「できたよー!」

「……」

「何ですか。毒なんか入ってませんよ」

「無事、新年を迎えられますように…」

「…………」

まったく失礼な、あたしだって料理くらいできますよ!元就くんはあたしのことただのぐーたら女か何かとでも思っているのか!
……いや粗方間違ってないけど。

「元就くん、あと10分で今年も終わりだね…」

「…このそば、普通ぞ」

「…普通って何さ。普通とか言われても全然嬉しくないわい」

「可もなく不可もなく…」

「………」

この野郎馬鹿正直に普通、普通って…美味しいとか何とか言え!それでも黙々とそばを食べていく元就くん。それが少し嬉しくて思わず微笑んだ。

「というかあと10分で今年も終わり…ってしみじみしたのに、」

「貴様にしみじみなんて似合わぬ」

「元就くん今年最後も厳しいお言葉ですね」

願わくば来年の元就くんは優しさ溢れる元就くんでいて、と最後のそばをすすった。

「…あ、あと5分」

「…」

今年を振り返ってみれば、いっぱい笑っていっぱい泣いた一年だった。嫌がる元就くんを連れて、一緒に色々遊び回ったし本当に楽しかったな…。

「元就くん、今年一年、ありがとうございました。それから来年もよろしくお願いします」

「ふん、精々我の邪魔をするでないぞ」

「…えらそうな…」

「…………」

くすくす笑って、時計を見た。さぁ、もうすぐ年明け。

来年も、元就くんと、笑って、泣いて、楽しい一年でありますように…。


「…あけましておめでとうございます!」

「あぁ、」






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