まだ生きていたかったけど、


駅からの帰り道、あんまり好きじゃない歌を聞きながら歩いていると前方に元就くんみたいな人を発見した。彼は本を読んでいるのか、下を向きながらも歩きは速い。どう見ても元就くんだ。

「元 就 くんっ!」

振り返ったらほっぺに指が刺さるっていうことを予想し、遊び心を忍ばせ肩を叩いた。が、元就くんはあたしだと知ってか知らぬか、ことごとく無視し、さらに早足になったのだ。まぁ何て冷たい人、と思いながらもあたしもむきになり、元就くんを走って追いかけ、背中に跳び膝蹴りを決めてみせた。

「っ!!なっ!!」

勢いをつけすぎたせいか、蹴りは決まったものの、そのまま元就くんの上に倒れ込んでしまい、さぁ、大変!

倒れた元就くんは眉を釣り上げ、随分怒っておられる様子、あたしは顔の体温が段々下がっていくのを感じる。

「き、貴様…!!」

「ご、ごごごごごごめんなさいっ!!こ、ここまでするつもりはなかったんだよ!ほんとのほんとにっ!」

「うるさい黙れっ!!いつまで我の上に乗っているつもりだ!!」

あわわ、そうだ、まだ元就くんを下敷きにしたままだった!慌て元就くんの上から退き、ゆっくり起き上がった元就くんをちらり見てみれば、元就くんは何やら黒いオーラを放っておられるような…おられないような…

「我にここまでした奴は貴様が初めてだ!」

「ぐ、苦、しいっ!」

「許さぬぞ!」

元就くんに首を絞められ、あぁ、あたしは今日死ぬのか、と目を閉じたらあっさり彼の手はあたしの首から離れた。

「服が汚れた、弁償しろ」

「えぇ!?」

「それから新しい参考書も買え」

よ、読んでたの小説か何かだと思っていたけど参考書だったのかー!抜け目ないな元就くんっ!って冗談抜きでそれは無理だよっ!!あたし、今月全然バイト入れてないから財布の中すっからかんなんだよ!!

「…も、元就くん…あたし、お金ない…」

「それくらい知っておる」

「し、知ってて言ってるの?!」

「我は本気ぞ」

「……………」

こっちも本気でやばい。お母さんがお金くれるわけないし、でも服くらい洗えばいい……いや、今改めて元就くんの服見たらそうとう汚れていた。そういや朝は雨降ってたからな……。あ、でも参考書も別に……と思ったけどこれまた水たまりの中にどぼんだわ……。

「………(ちら)」

「(ぎろ)」

こ、こえぇぇぇ!!お、鬼だ!絶対あたしに弁償させる気だ!

「ご、ごめん!」

「何度謝っても許さぬ、我を甘く見るな」

「だ、だよねぇ!」

何度も謝ったら許してくれるかも、とか思ったあたしは相当な馬鹿だ。いや、元就くんに跳び膝蹴りなんてすること自体、自殺行為だったんだ。

「……」

溜め息一つ、あたしは仕方なく財布を取り出した。確か二千円もなかったな……いや、もしかしたら一万円だったかもしれない。と無意味な願いをかけながら、財布を開いたが、札がないっ!!これは予想外だった!

「………(ちら)」

元就くんは水たまりに落ちた参考書をじっと見つめている。よく見たら参考書は新しく、買ったばかりのよう。

「…あ、あのさ…」

「………」

「何とかお金貯めるからそれまで待ってくれない?」

「………」

まさか、まさかこんなことになるなんて、元就くんに声をかけなければよかった。今日この駅に来なければよかった。むしろ生まれてこなければよかった。

「1ヶ月だ」

「あ、ありがとう!!」

1ヶ月待って下さるらしい。よかった、安堵して、手帳を開いた。今月は殆ど暇だ。頑張ってバイトしよう!と気合いを入れたとき、

「1ヶ月、我の言うことを聞け」

「………は?」

「弁償できないのであろう」

「…う、うん」

「ならば、1ヶ月我の言うことを聞け」

「……はい…?」

そ、そんなことでいいのか…!よかった。流石にテスト前にバイト漬けってのも、と反面思っていたからこれはこれでまだよかったよ。と思う。だが、その安堵とは逆の元就くんの不適な笑み。

「まずは我の参考書を弁償しろ」

「…………うん?」

「言うことを聞くのであろう」

「……」

だよねぇ!も、元就くんが優しいわけない!あたしは泣く泣くバイトを入れパシリ、という余計な地位を手に入れてしまったのだった。








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無意味な馬鹿話




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