らぶあんどぴいすが合い言葉


昨日から元就氏が忙しなく動いていて、どうしたんだろう、と思ったら明日から何かしらで毛利の地を出るらしい。詳しくは聞けなかったけど、元就氏がいないのはつまらないなぁ、とあたしは憂鬱だ。





幸せも全部





あぁ暇だ暇だ、夏の暑さと暇さが足されてあたしは憂鬱だ。エゲレス語でメランコリーってやつだ!くー!エゲレス語が喋れる喋れないで多分人生の明るさが違うな。半分は勿論元就氏の存在なんだけど。

「さぁてそろそろ朝餉の時間かなぁ」

一人で元就氏の部屋にいるのは少し寂しいが、あたしは自立ってものを目指しているから大丈夫!何たってあたしは元就氏の友達だもの!

「失礼します。朝餉をお持ちしました」

と、部屋に訪れたのはいつもの大人しい感じの女中さんではなく、綺麗で大人っぽい女中さん。うん、女中さんっていうよりどこかのお姫様って感じだなぁ、と一人頷いていると、彼女は膳をあたしの前に置かれた。

「ありがとうございます………あれ?」

膳を見ても、昨日と比べて量が少ないように感じる。米なんていつもの半量だ。
不思議に思って彼女を見たら彼女は妙な威圧感を放ちながら微笑まれた。

「……何か?」

「…え、あ、いや、何でもないです!」

「はい。では失礼しました」

こ、恐い…!何だあの威圧感と冷たい目は!あの視線は元就氏よりもきついぞ!久々に感じた冷や汗を拭いつつあたしは米を口に運んだ。が、

「……堅っ!」

何だこりゃ、ごりごりいってるぞ!くそー!どういうことだこれは!元就氏の陰謀か?!……いや、元就氏はいないんだった。てへ!

「……てへ、じゃないっ!!」

何やってるんだ自分!これは怒るべき事態なのだよ!
よし、と立ち上がったあたしは気合いを入れて女中さんの元に向かった。

すたすた廊下を歩き回ってやっと見つけた先程の女中さん。よし、と気合いを入れて声をかけようとしたのだが、

「…あら、」

「……あ、こ、こんばんわ」

な、何だこの相変わらずの威圧感は!恐ろしや、こんばんわとか言ってしまった…!

「何かご用で…?」

「…え、あ、…その」

有無を言わせない物言い。元就氏よりもきつい雰囲気。あたしは駄目だ。この人には勝てない…!

「いや、やれるぞ!あたしなら勝てる!何たって元就氏の友達なんだものあたしは!」

「…一人言にございますか?」

「…あ、あたしったらっ!」

恥ずかしかったが、ちらり見た女中さんの顔はあたしを蔑んだような、そんな冷笑。嘲笑。ずきりあたしの心は感じたことのない痛みを感じた。

「…それで何か?わたくし、仕事があるのですが」

「…ご、ごめんなさい…なんでもない、です」

涙が出るのをこらえて女中さんの元から走り去った。元就氏はあんな顔、したりしなかった…。こんな顔して人に見られたのなんて初めて、…。

涙が出そうになって部屋で膝を立てて座っていると、また、失礼します、という声。途端にびくり反応した心。と会いたくない、という気持ち。う、逃げたい…

「膳を下げさせていただきます」

やはり彼女だ。彼女はあたしをちらり見て少し不機嫌そうな顔をされた。な、何だよ会いたくなかった…

「……あなた、何なの」

「………うぇ…?」

こ、恐い。この威圧感は息が詰まるというか何というか、嫌な感じ。まぁこれはあれだ。本能からの嫌な感じなんだけどね

「…急に現れたと思えば神様ですって?ふざけないでっ!」

「、!!」

浴びせられた怒声。彼女の顔は本気の怒りが表れている。憎しみっていうの?やはりあたしが知らないような感情もここにはたくさんあって、神様もそんな感情を生み出させてしまうのか、と悔しかった。

「あなたのお陰で元就様は前より穏やかになったとか皆は言うけど、あなたみたいな余所者が元就様にくっつくのがあたしは許せないっ!!」

「…………」

そうか、この人は元就氏が好きなのか。今いない元就氏を思い出してそうか、優しいものね。なんて他人事にしてみたり…実際冷や汗だらっだら何だけど?

「あなたみたいな余所者に元就氏の何がわかるのよっ!!」

「……、……」

「……ねぇ、」

「…わかんない!」

思わず叫ぶような声が出た。だって、だってあたし、元就氏の考えてることなんてちっともわからないし、喧嘩ばっかしてるし。

「けどあたしは元就氏の友達だから!」

だから、だからあたしは、元就氏の隣にいたい。元就氏の傍で笑っていたい。

「……友達、だから何よっ!」

「もうよい」

「「…っ!!」」

胸倉に掴みかかられたとき、ここにいるはずない元就氏の声がした。彼は相変わらずの無表情だったが、少し怒っているような声色。
元就氏の登場に驚いたものの。よく考えてあたし!あたしってば元就氏の感情が少しずつ読めてるよ!ってまぁ怒っているときくらい誰だってわかるか、

「下がれ」

「……、…」

悔しそうな顔で下がった彼女。ただ元就氏が好きなだけなのに、伝わらないって、この世界って難しい。

「あやつはあれで、歴とした神だ。貴様のできぬことを容易にやってのける女だ」

彼女の去り際元就氏が何か言っていたが聞こえなかった。でもまぁ何とか安心だな、と溜め息を吐いたら飛んできた元就氏の平手打ち。

「いだっ!」

「なぜ無礼を許した」

元就氏からかかる威圧に押しつぶされそうにもなるが、あたしは学習したのだ。今さっきのことで

「元就氏が好きだからですっ!」

「はぁ?!」

勿論、彼女が元就氏を好き、って意味だったのだが、なぜだか顔を赤らめた元就氏。あら、これは照れているのか…

「にやにや」

「…莫迦者っ」

「いだっ、痛い…」

ま、この後も彼女からの地味な嫌がらせは続いたのだが、これも愛故ならば仕方ないか、と心優しきあたしはゆるしてあげるのでした。







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091212:>いつか登場させようと思ってたライバル。予想以上に長くてどろどろしたものに。その上元就氏の登場シーンが少ないのは本当にごめんなさい。桃子さま、リクエストありがとうございました。




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