誰が何と言おうと忘れてやらないから


それは小学校低学年の頃の話になる。なんだか小学校時代、というか日頃から怪我や病気が絶えなかったあたしは年に一度は入院をしていたのだが、今日もまた病院の嫌に白い部屋であたしは溜め息を吐いていた。

「毛利くん毛利くん、そのプリンはわたしのだよ。返して」

「ふん、貴様はその緑色の野菜を食っていればよいだろう」

何とまぁ、毎日のように元就くんは病院に訪れてはあたしの昼御飯、のデザートを横取りしていた。その日も彼は楽しみにしていたプリンをことごとく奪ってみせると、甘い、甘すぎる、だとか言ってプリンを胃に収めていく。半泣きになったあたしには彼は必ずピーマンやらほうれん草やらの苦い野菜を食べさせるばかり。まぁお陰で野菜嫌いの我が儘娘にはならずに済んだのですが。

「うぅ、わたしのプリン…っ!」

「…泣けばいいとでも思っているのか愚か者」

「………」

辛辣な言葉だった。この言葉はあたしの胸に深く突き刺さり、今でも忘れることはない。

「…ちかちゃんは?」

「長宗我部などどうでもよかろうが」

「よくないよ。だってちかちゃんは意地悪しない」「…き、貴様、我が意地悪をしてると言いたいのか…?!」

「毛利くんは意地悪の塊だよ」

「…なっ…!」

目を見開いて驚いた表情を見せた毛利くんを一発殴ってやりたかった。握った拳を隠しつつも意地悪の塊、と言ったのがポイントである。

「……わ、我はわざわざ貴様の見舞いに来てやっているのだ!感謝をしろっ!!」

「…感謝してほしけりゃプリン返せ」

何が感謝だふざけんなっ!入院した次の日病室に飛び込んで来たのは誰だ!散々騒いで同室の人に怒られたのはわたしなんだぞっ!誰が感謝なんてするものか、プリン返せっ!

「莫迦者!貴様が毎回入院しているのを我は心配している、と………っ!!」

「何赤くなってんだよ。プリン返せ」

何だか一人騒いで一人赤くなる毛利くんが馬鹿みたいでわたしは呆れつつも、窓の外を見たら、ちかちゃんが走って来る所で安心して溜め息が零れた。と、同時に頭に飛んできた手。

「い、痛い…暴力だ…」

「溜め息とは何事ぞ!我を誰だと思っておる!」

「プリン泥棒暴力野郎緑色」

「き、貴様…っ!!」

「い、痛い痛いっ!叩かないでよぉっ!」

加減をしない彼の手に半泣きになっていると控えめに開いた病室の戸。みればちかちゃんがわたし達の様子を見ていた。

「!ち、ちかちゃんっ!」

「も、元就、女の子を叩くのは…」

「黙れ女男!貴様何の用だ」

ちかちゃんが来た途端目つきが変わった元就くんが恐くてわたしも小さくなった。何かとちかちゃんをライバル視している元就くんは恐い。

「寧ろ毛利くんが何しに来たんだ、っていう……」

「黙れ!」

「い、痛い…」

わたしは病人である、と言うことを元就くんはわかっていないのか、この野郎、見舞いに来た癖に…!

「…も、元就!」

「元就様と呼べ!女男!」

「お、女男って言うなよっ!」

「貴様は女男であろうっ!」

何て、二人の喧嘩がしばし続いて、頭を抱えた頃。この病室に入って来た看護婦さん。彼女は見慣れた元就くんとちかちゃんに溜め息を吐いた後、目を釣り上げて二人の首根っこを掴んだ。

「またあなた達ですかっ!ここは病院ですっ!騒ぐのなら帰って下さい!!」

その鬼のような顔に、流石の二人も顔を青ざめると大人しく頷いた。ちかちゃんなんて半泣きだ。学習しろよ二人共。

「…まったく!次騒いだら病院から出てってもらいますから」

こくこく頷いた二人に、看護婦さんは帰って行き、病室に静けさが戻った。

「……ざまぁみろ」

わたしの思い出の中の元就くんは相変わらず憎らしい存在である。





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姫若子の扱いが酷くなってしまいました。ごめんなさい。子供の頃も二人は喧嘩ばかりです。
音無さま、リクエストありがとうございました!




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