元就くんは最近わたしに構ってくれなくなった。確かにもうわたし達も三年生で、受験だって近い。わたしは就職するが元就くんは大学に行く。彼は一流大学を受験するから、勉強に必死。わたしに構ってる暇なんてないことくらいわかっているし、わたしだってそんなに余裕はない。
けれどもうすぐ会うことも少なくなるんだ。そしてもしかしたらもう会うこともなくなるかもしれない。
なのに、こんなの寂しいじゃないか。まぁそんなの我が儘だって、わかっているんだけど…。

「……ねぇ元就くん。元就くんはどうして大学に行くの?」

ぼんやりと日が暮れ始めた窓の外を見つめて元就くんにぽつりと呟いた。

「フン、頭の悪い貴様には所詮わからぬだろう」

「…何だよその言い方…」

元就くんはどうしてわたしの思うことをわかってくれないのだろうか。いや、わかれと言うのも自分勝手な意見だが、元就くんはわたしとわかれるのも卒業するのもきっと何とも思っていないんだ。

「………」

「…」

「…何を怒っている…」

元就くんは勉強の手を休めることはなかったが少なくともわたしを気にしてくれているようだった。いや、気にしているというか呆れているようだ。

「…元就くんは寂しくないの?」

「…寂しい…?何がだ」

「…わたっ……卒業」

わたしと別れるの。そう言いたかったが元就くんが寂しくなどない、とか言うわけがないと思ったのでこらえた。

「フン、貴様我を誰だと思っているのだ」

寂しいわけない。と言うような元就くん。
わたしはその声色に泣きそうになって、必死に外を見つめた。

卒業したら…もうわたしの人生に元就くんは交わることがなくなるんだよ…?
こんな風に会うことだって、もうなくなるかもしれないよ…?どうして寂しいとか、何とも思わないの…?

「っ、」

嫌だ嫌だ!このまま、ずっとこのままがいい!
元就くんと一緒にいれるなら、わたしはずっとこのままでもいい。このまま、何も知らない子供のままでも…いいのに。

「……」

と、元就くんがノートをかばんにいれる音がして、思わず彼をみた。
元就くんは何も言わないが、帰る気なのだろう。
まだ一時間しかたってないのに珍しいな、と呆然とするわたしに彼は溜め息を吐いた。

「言いたいことがあるなら言えばいいだろう」

「…なら言う!わたしは卒業したくない!」

「ならばしなければよい」

元就くんの冷たい瞳がわたしを捉えた。

「ちが、わたしは…元就くんと一緒にいたいっ…!」

思わず立ち上がって拳を握った。

「何がいいたいのだ」

しかし元就くんの表情は冷たいままで、わたしは涙がこぼれた。
どうしてそんなことを言うの。

「わたしは……」

「貴様が言っているのはただの我が儘ぞ」

「…っ!」

ぼろぼろと涙が溢れた。元就くんには、わたしは映らない…?わたしはあなたにとってはただの駒でしかない…?

「就職すると言ったのは貴様であろう」

「…」

「自分が決めたことを、何故今更否定するのだ!」

びく、と体が反応した。
元就くんは、全てわかっている。わたしのことも、自分がこれから何をしたいのかも。

「貴様はもう子供ではない!」

いつまでも甘えてられるわけではない。勘違いするな!…元就くんの追い討ちをかけるような言葉が頭の中で響く。

「……」

「…大人に…大人になることってそんなに大事なことなのっ?!」

涙を拭って、元就くんを睨み返した。

「本当に大切なことってのは…もっと、もっと身近にあって、そのためならわたしは何だってできる!」

子供のままでいい。大人になんてならなくていい。わたしは、本当に大切なものを失いたくはない…!本当に大切なものを、見失いたくはないっ!

「わたしにとっての大切は、元就くん…だからっ!」

声が震える。喉がつっかえて、上手に息ができなくて、目の前の元就くんが霞んでいく。

「我は見失わぬ」

「…え?」

元就くんは凜とした表情で淡々とそう告げた。

「本当に大切なものを、我は見失ったりはしない」

「………」

そしてわたしの手を引き外に出た元就くん。彼の表情は見えなかったが、夕日を浴びる彼は輝いてみえる。

「我は信じる」

「!」

「本当に大切なものを、自分を信じる」

それとも
それとも貴様は我を信じることができぬのか、不適にそう笑ってわたしの手を引く彼のぬくもりを、信じられないわけがないじゃないか!

「でもやっぱり卒業してもたまには遊んでね」
「……」






(大人になるのってそんなに大切なことなのかな)
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