「もし世界が明日滅亡するとします。」
夕日が差し込む教室。突然現れた彼女は、我の前の席に座り、妙なことを口にした。
「そして、元就くんは世界の救世主。何か色々あって、元就くんは世界中の全人類か、わたしの、どちらかを助けることができるとします。」
どちらを助けます?、彼女の赤い唇がにやりと弧を描き、黒光りする二つの瞳が我を見つめた。
そんなこともしもだったとしても有り得ない。大体我が救世主などふざけているだろう。
だが、一応答えてやる。
「誰も助けない」
「やっぱりねー」
彼女は、思った通りだと言わんばかりに声をあげて笑う。最初からわかっていたなら聞かなければいい。そう言えば、彼女はまたにやりと笑う。
「元就くんは素直じゃないから、もしそんな状況になったら絶対にわたしを助けるよ」
「何を根拠に」
自惚れるな、そう言って、今まで読んでいた本を鞄に入れ立ち上がった。
もう読み終わったの?そんな声がして、静かに頷いた。
「だってわたしだったら元就くんを助ける」
「………」
教室を出ようと進めた足を一旦止めた。「会ったこともない沢山の人たちより元就くんがわたしは大事だもの」
眉を下げ、寂しげに彼女は言うが、何故そのような話に真剣になれるのか不思議だった。
「じゃあ、あえて聞くけど元就くんはどうして誰も助けないの?」
元就くんらしいけど、と笑う彼女。
我は全人類を助けることができるほどの力は持たぬ。それに
「貴様がいたら、我が死ぬ」
「……は……?」
彼女は目を丸くして、我を凝視した。
きっと貴様がいたら我は死ぬのだ。
詳しく言えば、こやつと二人きりなど我には無理だ。確かに今も二人きりではあるが、これとそれとは別だ。
「我は卑しい人間ぞ。」
「……?」
卑しくなんてないよ。彼女はそう言いたげに眉を下げたが、我は卑しい。
「きっと我は貴様を欲する」
この世界に二人しかいないのだと知ると、我はきっと手を伸ばす。貴様を我のものにせんと、欲を露わにするだろう。
黙ってしまった彼女に静かにそう告げた。
「我が触れることで貴様が汚れる」
そんなことは嫌だ。己の欲望で、彼女を汚してしまえば、我は生きられない。大切に…したいと思うのだ。
しかし彼女は庇うように我の拳に自分の手を重ねた。気づけば握りしめていた我の拳を彼女は優しく解いた。
「………」
いつの間にか横にいた彼女を見れば、彼女はまたにやりと笑っていた。
「…わたしってすごい大事にされてるんだね」
にやにやと本当に嬉しそうな表情に拍子抜けしてしまう。
「それって仕方ないことなんだよ」
そして彼女は頬を緩ませながら、教室を出た。そんな彼女をゆっくり追う。
廊下は昼間とは打って変わって静かだ。淡い日の光が彼女を照らしている。
「怖がらなくてもいいよ。」
わたしは逃げないから。と叫び、彼女は走り出した。廊下に響く彼女の足音が段々遠くなり、廊下には我一人になった。
「………」
呼吸をする音と心臓の音がよく聞こえた。
もし、誰もが我を世界を救う救世主だと言おうとも、我は誰も助けない。
ただ、次この世界に来るときは、もっと綺麗に生まれたいと願うのだろう。
(もう子供ではいられない)
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前世の記憶がある元就氏設定
-補足-
元就はある日前世の記憶を思い出した。そして詭計智将として沢山の人々を自分が殺してきたことを知り、現代はそうでなくとも自分の手が血で汚れていると感じるようになった。傍らにいる大切な人さえもいずれ自分が壊して汚してしまうかもしれないと、恐怖する日々。自分がもっと綺麗であれば……。
最初書いてたのは思っきし病んでてそんなものをこのサイトにのせたくなくて修正して日記でこっそり。元就氏のイメージを壊してしまい、申し訳ありません。わたしの中での彼は実はこんな感じ。