何かに気づく木曜日


次の日、実並殿は佐助と共に学校に来た。昨日よりもずっと顔色も表情も良くて、そんな彼女の姿に安心する自分がいた。

そういえば、昨日はどうして実並殿のことを嫌いじゃないとか、言ったんだろう。ぼんやりと、納得のいかないようなことを思い出して溜め息を零した。

「幸村くん、」

と、溜め息を零していた某の所に、実並殿は現れ、名前を呼んだ。
今まで実並殿の考えていた某は、何だか気恥ずかしくなって慌てて立ち上がった。何故某はこのように実並殿にかき乱されているのだ!

「昨日はありがとう。これ、お礼に」

「……?」

照れくさそうな実並殿の手から受け取ったのはクッキーのようで(そのうえ手作り!)、素直に嬉しいと感じた自分にまた納得がいかなかった。

「クッキー、でござるか?」

「あ、嫌いだった?」

眉尻を下げて不安そうにする彼女。そんな彼女の不安を取り除こうと、必死に首を振った。

「か、甘味は嫌いではないでござるっ!」

「そっか、よかった」

あんまりうまくできなかったから美味しくないかもしれない。ごめん。
それから実並殿はそう言って申し訳なさそうにして俯いた。が、今それを見る限り、十分美味しそうで、妙に潮らしい彼女が不思議だった。

「…いつ、作ったのでござるか」

と、浮かんだ疑問。昨日の実並殿は風邪で、それどころではなかったし…もしかしてずっと前に作っていたとか…?

「あ、今日だよ。作りたてほやほや」

に、と笑顔を浮かべて嬉しそうにした彼女に、何故か某も嬉しくなって、ありがとうと言えば、彼女は驚いたような顔をした。

「幸村くん、やっと笑ってくれた…!」

「は?」

「だって、ずっと気難しい顔してたから迷惑かな、と思って」

そうだっただろうか、と考えて、その通りだと思った。彼女はそんな某に不安だったのだろうか

「…嫌いではない、と言ったでござる」

「わたしのこと?」

「だ、だから迷惑など思わぬっ!」

そうだ、実並殿のこと、某は嫌いではないと気づいたのだ。ドジで抜けていて、ほっとけないようだけど、きっと某は実並殿のこと、嫌いではない。
目の前では、本当に嬉しそうな顔の実並殿がいて、気恥ずかしくなり、先程もらったクッキーを一つ口に運んだ。

「……」

「…あれ?」

さぁ、味はどうですか、と言わんばかりにこっちを見てくる実並殿だが、某は思わず間抜けな言葉を口にした。

「…しょ、しょっぱい…」

「…うぇっ?!」

実並殿はそんな馬鹿な…とかぶつぶつつぶやいて、某からクッキーを奪った。が、クッキーを一つ食べた瞬間歪められた彼女の眉毛。

「…あ、やば…砂糖と塩間違えた」

「…は…?」

どこのドジっこだ、と言いたくなってやめた。既に実並殿は顔を真っ赤にして俯いている。情けないが、そんな姿に思わず笑みが零れて、クッキーを一つ二つと口に運んだ。

「え?え?ちょ、幸村くん!食べないほうがいいよ!」

塩分のとりすぎはよくないって、とその通りだがどこか的外れなことを言う実並殿を無視して某は全てのクッキーを食べ切った。

確かに甘くはなかったが、

「別にまずくはない…」

「え?!」

「それに実並殿が某に作って下さったのだ。食べぬと勿体ない…!」

ペラペラ喋ってから、ぽかんと口を間抜けにあけた実並殿を見て、某は改めて自分が言ったことが恥ずかしくて、あたふたする。

「ゆ、ゆゆ幸村くん顔、真っ赤!」

「そ、そうゆう実並殿こそ、ま、真っ赤でござるっ!」

と、二人して真っ赤になっているところに運悪く佐助が現れ、何、告白でもしたの?とけろり言ってのけたのに二人してまた顔が赤くなったのは言うまでもない。




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