彼女がいない水曜日


今日は、実並殿が学校に来ていない。別に心配しているわけではない。むしろ清々しているのだ。けれど、佐助は相変わらずにやにやと不快な笑みを浮かべるのだ。

「実並、風邪だって」

「そうでござるか」

「実並の家、両親共働きだから今頃あいつ一人で寂しがってるかもなー」

「…」

「風邪のときは人恋しくなるとかよく聞くし」

「…何が言いたいのだ佐助」

佐助は某に実並殿があぁだこうだ、言う割に、全然心配しているような様子ではない。相変わらずにやにやして、某の様子を伺うようで、いい気分じゃあない。

「あ、独り言だから」

「…」

「今日は俺様部活あるし、見舞いに行ってやれないしぃ」

「…」

「あ、そういや、旦那、今日部活休みでしょ?」

「だから何なのだ」

「お見舞い、行ってあげてよ」

佐助は実並のためだよ、とか俺の気も晴れないし、とか言って、某の手を掴んだ。
だが、何故某が実並殿の見舞いなどに…!そう思いむしゃくしゃした某は、佐助の要求を断り、席についた。と、まぁそんなことがあり、放課後になった。佐助は相変わらずしつこかったが、某は実並殿が好きではないのだ。見舞いなど行くか、と学校を出た。

帰り道はどこか静かだった。と、言うか今日はいつもより静かに感じた。
と、言うのも佐助曰く、それは実並殿がいないから感じるらしい。
…確かに実並殿は騒がしくて、実並殿がいるとはらはらすることばかり。だが、これは、喜ぶべきことなのだ。静かであれば、某だって落ち着くことができるし、何たって、疲れない。
そう思うのに、何だか胸がもやもやとして心地悪い。実並殿は、今頃一人で苦しんでいるのだろうか…


気づけば足が動いていて、ついには実並殿の家のチャイムを鳴らしていた。

「…はい」

冷や冷やしながら、待っていれば、実並殿は額に冷えピタを貼り、だるそうに現れた。某を見た途端、嬉しそうに口をゆるませたのが、心に残った。

「幸村くん!」

どうして来たの、彼女はそう言いたげだったが、某はとりあえず彼女を部屋に連れて行きベッドに寝かせた。

「見舞いに来てくれたの?」「違っ、…ついでに寄っただけでござる」

「…そっか、ありがとう」

実並殿は、つらそうな顔をしながらも、にこにこと笑顔を見せる。熱はまだ高いようだ。

「でも、なんか安心した」

「は?」

「幸村くん、わたしのこと嫌ってそうだったから、まさか来てくれるとは思ってなかった」

「…」

嫌ってそう…、実並殿にそう言われたことに胸がずきりと鈍く痛んだ。確かに、嫌いとは佐助に言ったし、苦手だとも思う。けれど、いざそう言われると胸が痛い。

「やっぱり今も嫌いかな?」

どうせ佐助が行け、とか無理言ったんでしょ?ごめんね。彼女の声が遠くに聞こえる。
某が実並殿にそんな顔をさせているのだろうか。

「某、は…別に実並殿のこと…嫌いではない…」

「え?」

「な、なんでもないでござるっ!」

某が言った途端に、笑顔になった実並殿。それが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。

「幸村くんが来てくれたから風邪もすぐ治るよ」


…でも、実並殿は某の心臓を痛める術を、知っているのだろうか。




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