破るために決まりはあるんだもの
それから元就氏の元まで飛ぶのにそう時間はかからなかった。今はただこの胸の痛みに蹴りをつけたくて、必死だったのだ。
元就氏は戦場の真ん中で、敵を次から次に倒している。怪我一つないその姿に、また悔しくなって、思わず元就氏に突撃した。
幸せも全部
「だ、誰だっ!!」
背中から突撃したからか、元就氏は予想外の攻撃に倒れて、あたしはその元就氏の上に馬乗りになった。別にこの体制がいやらしいとかそんなことはない!だってあたしは今怒っているからそんなことどうでもいいのだ!
「馬鹿やろー!!」
苦しそうに振り返った元就氏の頬をばちこん、と思いっきり殴ってやった。それと同時に周りの敵さん方はあたしを見て目を丸くした。
「き、貴様、ひのわか…!!」
元就氏の睨みつけるその眼光もさほど怖く感じなかった。そんな表情をじ、と見つめれば見つめるほど、悔しいような、嬉しいような微妙な気持ちが湧き出てくる。
「何であたしを連れて行ってくれないの!」
静かに目を見開いた元就氏を見た途端に涙が溢れた。そりゃ、戦に行けないことに対してあたしがこんなに怒るとは思ってなかったでしょう。でもあたしはこんなに怒ってこんなに泣いてる。
「…戦は遊びではない」
力のない貴様など役立たずだ。そう伏し目がちに言った元就氏。わかってる。戦は命の駆け引きで、死んでいった人の重みもかかる。
「でもあたしは、元就氏のそばで、」
元就氏のそばで、元就氏を守っていきたい。元就氏の殺していった人の思い全て、元就氏が背負うんじゃなくて、元就氏には、あたしがいるから。あたしも元就氏の重みを背負っていきたいんだ。
「…………あたしは、元就氏を守りたいの!」
「……!?」
「そりゃあたしにはそんな力ないけれど、元就氏の孤独も罪も、あたしが一緒なら…半分になるから!」
今までの全ては無理だけど、これからの元就氏の罪は、あたしにも背負うことはできる。
「…貴様は…自分が何を言っているのかわかっておるのか」
静かに、呟いた元就氏。その元就氏の上から退いて彼の前に正座した。
「うん。わかってるよ」
「…貴様は神なのであろう、貴様に我の罪を背負うなど無理に決まっておる」
「無理だなんて誰が決めたの」
「!」
「神様は確かに人間に干渉してはいけない。けれどあたしは元就氏に会った。」
今じゃもう友達。言って見つめた元就氏の瞳。戸惑ったような表情。
「今までの決まりも何もかも、あたしには関係ない!決められたことだって元就氏のためなら破れる!」
あたしは元就氏の苦悩も、孤独も知ってたから。知ってたから。会いたかった。あたしと同じだったから、会いたくて、会いに来た。
「……あたしはもう決まりも全部破ってここに来てる…」
「……」
「だからあたしに無理なんてないよ!」
「……」
「少しはあたしを信じて…?」
涙を拭いて見上げた元就氏。彼は手を宙に浮かせしばらくさまよわせた後、あたしの頭にそっと手を伸ばした。
「貴様はどんな者より扱いにくい奴ぞ」
「……え?」
「貴様に黙ってここにきたのも、居場所を言わなかったのも、貴様のためぞ」
「………?」
言っていることがわからない。そんなあたしのためなんてわけがない。だって元就氏はあたしを連れてきたくなかったんでしょう?
「次は何が起こるか分からぬであろう」
「…次って…」
「………莫迦者。」
それから、あたしの頭に伸ばした手を一瞬戸惑ったように止めたものの、彼は呆れたように笑ってあたしの頭を軽く撫でた。
「貴様には無事でいてほしかったと言っているのだ」