しばらくここを出ます。探さないで下さい


夏って暑いなぁ、とぼんやりする日輪を見上げた。

「…元就氏ってさ、もしかしてあたしのこと好きだったりする?」

ははは、と乾いた笑いを浮かべて冗談混じりに呟いた。結局先程の婿養子だの何だの、の話は進展しなかったから、あたしは暇を持て余していたわけよ。

「…………」

「………元就氏…?」

別にさっきの問いに深い意味はなかったし、どうせ自惚れるな!とか言って叩かれるんだろな、と思っていたのに黙り込んだ元就氏にびくりとした。

「まさか図星…?」

嬉しくないわけではないんだけど!ないんだけど、なんだかそれはそれで照れくさいなこの野郎!とちらり元就氏を見たものの、彼は相変わらずの無表情で鼻を鳴らした。

「自惚れるな」

「…よかった!」

「!!………、…っ」

元就氏は何だか悔しそうな、表情を一瞬浮かべたもののすぐに視線を書物に移した。

「…暑いなぁ、あ、あたしそろそろお盆だし家に帰ってみるね」

「……何」

「大丈夫だよ!お盆終わったら帰ってくるし。ー!」

ぱちん、と片目を瞑ってみたら元就くんはそんなあたしに鼻で笑った。
は、鼻で笑うなんてまったく失礼な!あたしはこれでも神様なんだぞ!

「帰って来る頃には元就くんをぎゃふんと言わせてやる」

雷とか出せたらいいな。いや、あたしやっぱり光属性だろうからなぁ…光属性つってもあたしに何ができるのだろうね。元就氏みたいにぶわはってできるのかな…?いや、あれはあたしにはちょっと、

「ふん、貴様に何ができよう」

「きー!!そういうのちょっといらっとする!」

「本当のことだ」

何だか拗ねているようなそんな感じがする元就氏を不審に思いつつも、久々に帰れると思うと嬉しい。父様母様は元気にしているだろうか。病気していないといいんだけれど、まぁそんなに柔な人達じゃあないか。

「元就氏、お土産は何がいいですか?」

「そんなものはいらぬ」

「照れるな照れるな」

にやにやしながら元就氏の手元を覗き込んだ。彼の読む書物の間には、あたしのあげた枝折り。使ってくれていたんだな、と嬉しく思う。

「帰って来たあたしならきっと元就氏のどんな願いも叶えられると思うよ!」

「何だ急に」

「だってまだ一つ願い残ってるからねー」

元就氏の願いを叶えられるようにするためにはあたしは火の中だって水の中だって行ってみせるよ!なんたって元就氏はあたしのお友達だ!

「元就氏、願い事は決まってる?」

「どうせ三つ目も叶えられぬだろう」

「うっ!た、確かに一つ目と二つ目は叶えられんかったけんども…」

次は叶えるよ!
たとえその願いが無理難題だとしても、これはあたしが元就氏に示す敬意。それから感謝。

「だから、もっと立派になって帰って来る!心して待つがいい」

「……相変わらず貴様は莫迦よの」

呆れた風な元就氏の僅かな笑みに頷いて答えつつも少し寂しさを感じた。

「…今回は引き止めないんだね」

「我は前回も引き止めたつもりはない」

「でもさ、元就氏は見送ってくれるじゃん」

「ふん…ひのわ、貴様が帰って来ると言ったのだ。それなら我は待つしかないだろう」

「…元就氏…!」

思わず目を見開いて元就氏を凝視した。彼は無表情ながらも少し寂しそうな雰囲気で、視界が潤むのを感じた。鳥肌が立って、どうしようもなく口が震えて、嬉しさに頬が緩んだ。

元就氏があたしを、信じてくれている

「あたし今日帰るよ!」

「随分と急だな」

「うん!早く力つけたいから!」

少しでも元就氏の役に立てるなら。これから先、元就氏が傷つくことがないように、あたしが強くなって、元就氏の盾になる…!

「日輪の神様、なめんなよ?」

「見習いであろう」

ばいばい、と元就氏に手を振り、あたしの足は地上から離れ、あたしはただ真っ青な空を目指すのだった。





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